財界の暴君に契約妻として囲われました ~初恋を拗らせた大富豪に、一途に愛されています~

 ベッドに横たわる惺也くんに掛け布団をかけようとした、その刹那。
 スッと腕が伸びてきて、彼の腕に抱き寄せられた。

 アルコール臭と甘ったるい香水の匂い。

 同居を始めてから毎日、同じように抱きしめられて寝ているはずなのに、今夜はいつもと違う感じがした。

 鍛えられた逞しい胸と腕の拘束感は同じなのに、なんでだろう……。
 こんなにも密着しているのに、彼が遠くに感じる。

 規律のいい寝息を立てている彼の顔を見上げた、その時。

「マ、リー……」

 彼の口から漏れた寝言。
 ほんの一瞬だったけれど、確かに女性の名前だった。

 マリー? マリ? さっきの秘書さん……? え、二人は……そういう関係?

 でも、彼女が本命なら、あんなにもすんなりと引き下がって帰るだろうか?
 睨みの一つくらい利かせて、牽制してきそうなものだ。
 だとすると、本命は……他にいるってこと?

 突然、私の前に彼が現れたのも変だと思ったのよ。
 それに、借金を帳消しにする代わりの契約結婚。
 幾ら、お金に余裕があるとはいえ、形だけの夫婦なんて……まともに考えたら、おかしな話だもの。
 全部が一気に繋がってしまった。

 ……そうか。本命は〝マリ〟さんなんだ。
 だから契約結婚を提示してきたのね。

 きっと、結婚が許されないような……そんな相手。
 もしかしたら、相手のマリさんも既婚者なのかもしれない。
 だから、私はただの隠れ蓑なんだわ……。
 
 喉の奥が震え、いつの間にか、目尻から涙が溢れだしていた。