財界の暴君に契約妻として囲われました ~初恋を拗らせた大富豪に、一途に愛されています~

「あ……」

〝ありがとうございました〟と伝えようとすると、秘書は家の中へと歩を進め、迷いなく夫婦の寝室へ向かっていく。
 今までもこういうことがきっとあったに違いない……そう自分自身に言い聞かせる。

 寝室のベッドの上に惺也くんを横たわらせると、城ケ崎さんは慣れた手つきでジャケットを脱がし、ネクタイを外し始めた。

「あ、あの……、後は私がやりますので……」
「あぁ、そうですよね。……では、奥様、社長をお願いいたします。夜分に失礼いたしました」

 丁寧に一例した城ケ崎さんは、何事もなかったように帰っていった。

 ベッドに横たわる酔いつぶれた惺也くんを見据え、胸の奥がざわめく。
 彼が仕事でどんな付き合いをしているのかなんてわかるはずもないのに、当たり前のように彼を支える城ケ崎さんを見て、不快感を覚えた。

 ワイシャツを脱がせようとすると、ふわっとまたバニラのような甘い香りが仄かに漂い、思わず手が止まってしまった。
 服に匂いが移るくらい、ずっと近くにいたってこと……なのね。
 胸の奥が、波立っていくのがわかった。