財界の暴君に契約妻として囲われました ~初恋を拗らせた大富豪に、一途に愛されています~

 指揮者が右手を静かに上げた、次の瞬──弦楽器の柔らかい音色がホール全体に広がり、管楽器の美しい響きが反射する。
 次第に様々な楽器の音色が重なり合い、ゆったりとした心地いい空間に包まれた。

 フルオーケストラの生演奏を聴くだけでも感動ものなのに、貸し切り状態のこの演出は……ズルすぎる。
 胸の奥から感動がこみ上げて、涙腺がじんわり滲む。

 三曲が終わると、ホール全体がゆっくりと明るくなっていく。
 団員たちが一斉に立ち上がり、私たちに向かって一礼した。

 私は思わず立ち上がって、感嘆の拍手を送った。

「どうだ?」

 隣から声がかかる。

「言葉にできないくらい……素敵でした」
「……そうか」

 片桐くんは、わずかに目を細めた。
 その表情はどこか誇らしげで、満足しているようにも見える。

「気に入ったのなら、それでいい」

 素っ気ない言葉なのに、片桐くんの横顔から目が離せなくなっていた。