財界の暴君に契約妻として囲われました ~初恋を拗らせた大富豪に、一途に愛されています~

「は、……離して」

 震える声で言うと、彼は眉根を下げて、小さく息を吐く。

「お前のために、この数日間で大きな案件を三つ棒に振ったんだぞ」
「え……?」

 何を言っているの、この人。
 そんなこと、誰も頼んでないじゃない。

 掴まれた部分がじんと熱を帯びて、彼の黒い瞳が、真っすぐに私を射抜いてくる。

「俺はただ──お前を守りたいだけだ」

 あまりにも優しい声音に、胸がとくんと高鳴った。
 守りたいだけ……? 私を……?

 未空が言っていた言葉が蘇る。
『誠実さって、本当に隠せないから』

 彼の眼差しの奥に、本心が見えた気がした。
 こんな目、初めて見た。
 仕事のために、九石精工の技術が欲しいんじゃないの?
 そのためなら、結婚だっていとわないはずじゃ……?

 でも──今、目の前にいる彼の目は、嘘を吐いているようには見えない。
 それどころか、まるで……本気で口説いているみたいで……。
 胸の奥が、静かに揺れた。