財界の暴君に契約妻として囲われました ~初恋を拗らせた大富豪に、一途に愛されています~

 父の会社の倒産危機を知ってから五日目の金曜日。
 茜色の陽射しに包まれた教室は、日中の喧騒からようやく静けさを取り戻していた。

 床に水モップをかけながら、自然と視線が正門へと向く。
 ……今日も、来てるのかな。

 胸の奥が重く沈む。
 昨日も来ていたし、本当に毎日出待ちされている。

『九石精工の特許技術は、俺の新規プロジェクトに欠かせない』
 そう言っていたけれど、それだけで自分の人生を棒に振るもの?
 それこそ、どこかの財閥の令嬢と結婚した方が、よっぽど利益になると思うけど……。
 溜息を吐きながら、私は掃除の仕上げに取りかかった。

 十九時半を過ぎ、仕事を終えた私は、幼稚園の正門を出た瞬間──黒い高級セダンが目に留まった。
 やっぱり、今日も来てる。

 見ないふりして通り過ぎようとすると、後部座席のドアが静かに開き、三つ揃え姿の片桐くんが、ゆっくりと歩いてくる。
 長い脚で歩く、大きなストライド。
 モデルウォークのように絵になるほど麗しい姿に、思わず見惚れてしまった。

「毎日、こんな時間まで働いてるのか?」
「……そうだとしたら?」

 財閥の御曹司にはわからないでしょうね。
 汗水たらして働くのは当たり前ということが……。

 それにしても、本当に毎日通い詰めるなんて、そんなに暇を持て余してるの?
 まるで──私の生活に張りついているみたい。