財界の暴君に契約妻として囲われました ~初恋を拗らせた大富豪に、一途に愛されています~

 驚いて顔を上げると、元先生は「顔に書いてあるよ」と揶揄うように言った。

「……では、相談に乗ってもらっていいですかね……?」
「もちろん‼」

 ランジェリーショップを後にした私たちは、美味しいと評判の和食処へと向かった。
 その道すがら、〝夫の仕事が多忙なため、すれ違いが多い〟という愚痴を零した。

 本当は、〝夫に好きな人がいる〟という相談をしたいところだけど、さすがにそれは言えない。
 そもそも、契約結婚なのだから、夫婦の間に感情は不要だもの。
 
 だけど、好きだと自覚したからこそ湧いてくるモヤモヤや不安な気持ちは打ち消せそうになくて……。
 だからこそ、ほんの少しだけでいいから、愚痴を聞いてほしかっただけ。

「そっかぁ、大企業の社長さんだもんね。そりゃあ、何万人という社員がいれば、責任もあるし、仕事中心でも仕方ないか」

 もう何日も顔を見ていないということを伝えると、元先生も納得したような表情を浮かべ、私の肩をポンと優しく撫でた。

「二人でいられる時間は少ないかもしれないけど、家にいる時は、目いっぱい甘えたりして、新婚を楽しんだらいいと思うよ」
「……そうできたらいいんですけど……」
「大丈夫、大丈夫! こんな美人な奥さんなんだから、一分一秒でも早く仕事にきりつけて、帰りたいに決まってるって……!」

 元先生は何も知らないから、私を励ますような言葉をくれる。
 けれどそれが、本当だったらどんなにいいか……。自然と視線が降下し、呆然としながら歩いていた。