財界の暴君に契約妻として囲われました ~初恋を拗らせた大富豪に、一途に愛されています~

 化粧室から重い足取りで会場へ戻ると、ひと際目立つ真っ赤なドレス姿の愛華さんが目に留まった。
 その横には、私の夫である惺也くんがいる。
 まるで──妻がいようがお構いなしと言わんばかりに、寄り添っていた。
 胸の奥が、鈍い音を立てて軋む。

「惺也くん」
「あ、おかえり」

 勇気を出して声をかけると、彼の視線がスカートへと降下する。

「ごめんなさい。シミが残ってしまって……。こんな格好だと、惺也くんに迷惑かけちゃうよね」
「そんなことは気にしなくていい」

 優しい眼差しを向けながら、惺也くんはシミがある方に立ち、隠れるように私の腰を抱き寄せた。
 すると、物凄い形相で愛華さんが睨んでくる。その視線が気になって仕方ない。

 本命は愛華さんだけれど、社交の場では私が妻。
 惺也くんは、どんな気持ちで私の腰を抱き寄せたのだろう。

 あくまでも、世間体重視で妻ファーストに見えるように振る舞いたいのか。
 それとも、本命の彼女にわざと嫉妬を煽るように仕向けているのか。
 どちらにしても、私はお飾りの人形にすぎない。

 彼の〝好き〟という気持ちは、私ではなく、別の女性に向いているのだから……。
 その現実が、じわじわと心を蝕んでいった。