財界の暴君に契約妻として囲われました ~初恋を拗らせた大富豪に、一途に愛されています~

 化粧室へとやってきた私はハンカチを濡らし、ドレスの汚れた部分をそっと拭った。
 せっかく誂えてもらったドレスなのに……シミになりそうね。

 溜息を零しながら指先を這わせていると、コツコツとヒールの音が化粧室内に響いた。
 真っ赤なドレス姿の愛華さんが、無言でクラッチバッグからリップスティックを取り出し、鏡の前で堂々とメイク直しを始めた。

 私は気まずさを隠すように視線を逸らし、流水でハンカチをすすいだ、その時。

「……惺也さん、酔うと『Mary』って呼ぶでしょ」

 突然、愛華さんが話し始めた。

「それ、私の英語名なの」

 鏡越しに向けられた怜悧な視線は、私の心を鋭く刺してくる。

「昔からの癖なのよ。……寝てても私に夢中なんて、かわいいわよね」
「……っ!」
「ワインのシミは、こすると余計に落ちなくなるわよ。……まぁ、でも、今のあなたにお似合いね」