朝日有希の本当の名前を、僕はまだ知らない

有希は意識不明の家族を見舞いに、毎日病院に来ていると言った。

病院にいると分かる。そう言う状態になると、多分そのまま目覚めない確率の方が高いと思う。



「目が覚めるのを待つために来てるんじゃないの。奇跡なんて起きないし。ただ命がいつ終わるのか、それを目に焼きつけるためにいるの」



そんなことしても、虚しいだけだ。

有希みたいな女の子には、キレイなものだけを見ていて欲しい。

なんて、僕はギザでらしくないことを思って、自分なりに伝えてみることにした。



「僕は意識が無くなってあとは死ぬだけなら、一人でいい。残される側の人間には自由に生きて笑っていてもらいたい。自分が生きていた証明とか、見守りとか、別に要らないぞ」



「それは、湊月が本当に誰かを愛したことがないからよ」



有希はあまりにもきっぱりと真面目な顔をして言うものだから、僕はそれ以上何も言い返せなかった。

確かに愛とか、分からないし。



「これからも毎日、お見舞いに来る。湊月の部屋にも寄るわ。湊月は今も生きてる。話せる。それだけで私は嬉しい。それに、湊月はバスケットボールが死ぬほど好き。愛をまだ知らない。今日だけでこんなに知った。明日からはもっと君のことを知って覚えていく」



「……なんか悪い気がする」



「悪い? なんで」



「どうしても同情とか哀れみとかそういうのに感じちゃうんだよ。言っただろ、さっき。僕は多分死ぬって」



「でもまだ100%死ぬと決まったわけじゃないんでしょう?」



「まぁ。でも……」



悪性度が高いとか、余命宣告とか。

さすがに初対面の有希に言うには、重すぎる。



「湊月、貴方は死ぬくらいで随分いじけてるのね」



「はぁ?」