朝日有希の本当の名前を、僕はまだ知らない

救急車で運ばれて、あの医者が言った通りそのまま小児腫瘍外科に入院になった。




「湊月君の病名は骨肉腫です。骨のガン。ステージはーー」



ステージとか抗がん剤とか余命とか生存率とか。

生まれて初めて聞く言葉を毎日のように浴びて、信じられないくらいの痛みとか、トイレにすらまともにいけない恥ずかしさとか。



日々、自分が当たり前にいた世界から遠ざかっていく。

入院ベッドの脇に飾られた、メッセージの書かれたバスケットボールには、新から『約束ずっと待ってます』と書いてあった。



「なんでなんだよ!」


なんで、僕なんだよ。

僕は泣きながら、そのボールを殴り飛ばした。

バインバイーンと馬鹿みたいな音を立てて、ボールは跳ねる。

そうだ、バスケなんて、大したことない。

全国なんていけなくていい。

そう思っていたはずなのに。



「何で一番大事なものだけとっていくんだ!!」



大声で叫ぶとハァハァと、胸が上下する。

悔しい、悔しい、悔しい。

余命ってなんだよ。

僕はちょっとバスケが好きで、新にバスケを教えて、ついでに気になるあの子が自分に声をかけてくれないか、それだけ期待してる。

ちっぽけな人間だったのに。



するとざぁっとカーテンが開いて、とても細くて小柄な女の子がバスケットボールを大事そうに抱えながら僕の前に現れた。



「ーーどうしたの?」



「何でも、ないよ」



「ねぇ、貴方、死ぬの?」