朝日有希の本当の名前を、僕はまだ知らない

春、桜の花びらが舞う頃、僕は中2になった。

進学校とは名ばかりの、バカ中学に通っていた。

この街も少子化で、進路と言える高校だって2つしかないし。

名前を書けば通る超バカ高校か、それより幾分かマシな自称進学校だけ。

大学なんて存在すらしないから、行きたいならこの町から出ていくしかない。

これは、そんな田舎町の何でもない恋の話だ。


「あのっ、高田(たかだ)先輩!」



「湊月でいいよ」



「じゃあ湊月先輩。朝練付き合ってくれませんか!? オレも先輩みたいにかっこいいダンク決められるようになりたくて」



僕はバスケ部でこの春からは副部長で、来年には部長になる予定だった。
小学校からバスケ一筋で、プロになりたいとか、全国に行きたいとかは思ってなかったけれど、もし他の誰かに誇れることがあるならバスケと答えるくらいには自分にとって大事なものだった。



「教えてやりたいけど、最近足が痛くてさ。こじらせないように、練習量調整してるんだ」



「そうなんすね。先輩めっちゃ身長高いから。成長痛っすかねぇ?」



「うん。今整体通ってるからさ。また落ち着いてきたら僕から声かけるわ」



「ありがとうございますっ」



「マジでそんなかしこまんなよ」



「でもオレ、去年ここの練習試合観に来て、湊月先輩に憧れてこの中学に決めたんで!」



そんな奴いるのかよ。

こんな中途半端なバカ学校なのに。

僕なんかのために。

なのに、嬉しいものだな。



「故障には慣れてる。中指なんて3回は骨折してる(笑)必ずまた教えてやるからさ。ちょっとだけ待っててくれ」



「はい! オレは骨折したことないっす!」



「アホか、骨折なんて勝負するものじゃないから……そうだ名前、教えてくれよ」



斎藤新(さいとう・あらた)です」



「新、ごめんな。またよろしく」



その後、新とはインスタで繋がった。

てか、既に勝手にフォローされてた。

本当に変わった奴だ。

だけど、新の朝練に付き合うことは今日まで出来ていない。