朝日有希の本当の名前を、僕はまだ知らない

ーーバタン。




その時、有希が膝から崩れ落ちた。

そのまま地面に手を着き、少しハァハァと息苦しそうにしている。



「おい。有希! 大丈夫かっ?」



「だ、大丈夫。ちょっと目眩しただけ」



「起き上がれるか? 杖も使って」



「うん。私はもう平気だから。杖は湊月が使って」



有希は何でもなかったみたいに、すっと立ち上がり杖を僕に返すと、スタスタと歩き出した。



「ほら湊月。そろそろ帰らないと!」



「あぁ、分かってる」



「楽しかったね、湊月」



「うん」



本当に、もう大丈夫なのか?

そう聞こうとしたけど、有希が笑った顔がそれを拒むのがわかった。



「湊月。少しはやりたいこと、見付かった?」



「そうだな。とりあえず次は昼間に出かけたいな」



「いいね、それ。作戦会議しないとだ」



「有希……」



好きだ。

ただそれだけを言おうとしたら有希が僕の唇を抑えた。



「待って」



「何で」



「何でも。お願い」



有希がそう言うなら、僕は胸の中にこの切なすぎる思いをただしまうことしか出来なかった。



3話・[完]