朝日有希の本当の名前を、僕はまだ知らない

山頂に着いた。

イルミネーションは思ったよりしょぼかったし、街もほとんど電気が落ちていて、想像したような世界は広がっていない。



「現実なんてこんなもんだよな。外に行けば何か分かると思った。やりたいこととか、後悔を残さないこととか」



「湊月はまだ見つけられない?」



「分かんないな」



寒い寒いと思っていたら、ふと空から雪が降ってきた。

小雪だ。

ふわりふわりと、静かに降ってくる。



「ねぇ、湊月。まるで灯りみたいだね」



有希が手を広げて、雪を包んだ。

有希の熱で、すぐに溶けていく。

真っ暗な世界に降る雪は確かに灯りのようで。

しけたイルミネーションなんかよりよっぽど美しかった。



「寒いだろ」



僕は松葉杖をその辺にほおり投げ、そう言って有希の手を掴んだ。

想像通り、冷たくて温めてあげたいと思った。



「有希……ここまで連れてきてくれてありがとう」



「うん」



「僕は……有希がそばに居てくれること、当たり前に思いたくない。ただの同情でもなくて。多分、僕だけが有希に出来ることを探したい」



「うん……できるよ。湊月なら」



有希を抱きしめたい。

そう思う前に体が動いて抱きしめていた。

有希は抵抗しなかった。

それどころか僕をじっと見て、その後ゆっくりと目を瞑った。

マジか、とか。

初キス、とか。

色々浮かぶけど。

もう勢いでいくしかない。



静寂が流れた。

有希の唇はあったかくて、柔らかくて、少しだけ震えていた。

抱きしめる手に力が入った。



「……ミトコンドリア……生き返った」



「それ、やっぱ意味わかんないよ」



「そう? 私的には最高の褒め言葉」



キスした。

有希と。告白もしてないのに。

人生で忘れられない夜と雪灯だった。