朝日有希の本当の名前を、僕はまだ知らない

「ほら、ここが乗り場!」



有希が先に行って、手を振ってくれる。

僕は少しだけ歩調を早めた。

わくわくしている。

もうこんな風に楽しいと思うことがあるなんて、ないと思ってた。



「有希! 待ってて」



二人でロープウェイに乗ると、ほかの乗客は居なかった。

流石にもう営業時間ギリギリで。

上に行っても5分もしないで戻ってくるように窓口の人に言われた。



「5分って短すぎだよな」



「ふふ、ちょうどいいのよ。また来たいって思うくらいがきっとちょうどいい」



「有希……また脱走すんの?」



「逆に、もうしないの?」



「いや、する」



「湊月ならそう言うと思った」



有希が手のひらを出してきた。

僕はその手のひらをパチンと叩いた。



「ーーこれで共犯ね」



「いや、有希は悪くないだろう。抜け出してるのは僕だけ」



「そうかしら。もしバレたら私もかなりやばいよ」



「そうなのか?」



「うん。やばい。湊月も私の家族もあの病院でみてもらえなくなるかも」



「それはやばいな」



「そんなことはまた、その時に考えればいいの。ねぇ、そろそろ山頂だよ」