朝日有希の本当の名前を、僕はまだ知らない

「有希……」



「永遠なんてない。それを私も湊月もよく知ってる。この街も来週には雪が積もる。今しかないのよ」



今しかない。

そんなことすら、有希に出会うまで忘れていた。

過ぎていく時間は、真っ直ぐに死に向かっていくだけだと。

なのにーー



「……僕はまだ、終わりたくない。まだ、やれることがあるって証明したい。有希、外に行けばそれが見つかるのか?」



有希はガラスのような、その瞳で僕を見つめ返す。



「分からない。でも光陰矢の如し、よ」



「は、何それ?」



「湊月って本とか読まないの? 結構アホ?」



「バカ中学に行くくらいには」



「”やりたいことはできるときにすぐやっていきましょう”ということ」



「……有希は頭がいい」



「湊月よりはね」



場の空気が少し緩んだ。

有希は同い年なのに、なんでこんなにどっしり構えていて、頭も良くて、可愛いのだろう。



「ハハ、有希のお陰で、なんか吹っ切れたよ」



「私はただ背中を押しただけ。動くのは湊月だよ」



「だとしても嬉しかったから」



終わっていくだけの人生に、まだ未練がある気がした。

このまま心の中に眠っていたままで終わるはずだったこの気持ちを、有希だけがすくい上げてくれたんだ。



「必ず行く。23時」



「うん、待ってる」



「有希は大丈夫? 家族は入院してるって言うけど、他にも家の人いるんだろ?」



「全然平気。うち、放任主義なの。それに私、こういう性格だから家族からも嫌われてるし」



「家族からも? それは見る目ないな」



「でしょ、私、こんなに可愛いのに」



「そういうとこだぞ?」



友達なら、有希みたいに空気読めない奴は浮くのは何となく想像できる。

でも、家族まで? 意外だった。

ずっと一緒にいる人なら有希の真っ直ぐさは伝わるはずなのに。

と、出会って二日目の僕が熱弁するのは変か。