伝説の鬼姫さま、溺愛されています!〜地味子を演じて平穏に生きたいのに、最強のあやかし達が放っておいてくれません!〜

時刻は、6時30分。
目覚まし時計が鳴るより、少しだけ早い起床。

昨日早く寝たおかげか、体はすっきりとしている。

私は、段ボールの中からシンプルな無地の白Tシャツと黒いスカートを履く。
今日も、お父さんに言われた通りに変装をする。

やっぱりまだ、違和感しかないけど……お父さんを心配させたくないから。

それから、鞄の中身を確認して、静かに寮の部屋から出る。
まだ、授業もないので校舎の中は全体的に静か。
時折、既に起床している生徒の声が聞こえるぐらい。

こんな朝早くから何をしているかと言うと……食材調達だ。

実は、昨日の校内案内のときに、係りの先生が教えてくれた。

「この学園には、コンビニエンスストアやスーパーなど様々なお店が設備されています。生徒なら誰でも利用可能となっており、自炊をする生徒におすすめです。また、入店時に扉前の機械に学生証を見せれば学生割引を受けることもできます」

その言葉に、喜びと有り難さを感じたのを覚えている。
歩いてすぐに食材調達ができて、その上割引まであるなんて……学生に優しい。

入学前はそんなことを知らなかったから、近くのスーパーやドラッグストアなどの位置を確認していた。
そうでもしないと、不安で仕方なかったから。
実のところあまり地図が得意じゃない。
よく迷子になるし、目的地とは真逆の方向に行くこともある。

この学園でも、昨日迷子になって、案内役の生徒さんに助けてもらった。

だから、校内にスーパーなどのお買い物ができる場所があるのはすごく助かる。
特に私みたいに、この地のことをあまり詳しくない人からしたら迷いながら探さなくてもいいから。

歩いて3分もしないうちにスーパーに到着。
先生に教えてもらった通りに、扉前にある機会に学生証をかざす。
どうやらこれだけで、お会計の際に自動で割引がされるらしい。

凄い技術だなぁ。

早速、カートにかごを置いて、お買い物スタート!

今日は、日用品とお弁当の食材、そして今日の夜ごはんの食材を買う。

スーパーの中は、普通の店舗と同じような感じで安心感があった。
でも、内装が同じようでも売られているものは、違った。

食材コーナーでは、伊勢海老とかウニとか……普通のスーパーではあまり売られていない高級食材があった。
さらに、売られている物自体の値段が高い。

あまりの金額に、目が眩みそうになったけど……心配は無用だ。

学割もあるし、国から推薦された人は……他にも色んな金銭支援があるから。
それに私は、国と学園からのミスで入学してしまったこともあり……ここでも特別待遇になっているみたい。

理事長さん曰く、私のお買い物や授業料でかかったお金は理事長さんと国が8割も出してくれるらしい。
そんなに出してもらうなんてと断ろうと思ったけど……一般家庭で大したお金もない私たちは、金銭面では大変なことが多い。

なので、申し訳なさを感じながらもお言葉に甘えて支援をしてもらっている。

それらの理由から金銭面に不安はないのだけど……それでも、売り物の値段は想像の倍以上の価格で驚かずにはいられなかった。

支援してもらって正解だったかも。


お会計をして、お金を払い、スーパーを出る。
スマホの電源を開くと、時刻は6時45分ぐらい。

ここから寮の部屋に帰って、朝ごはんとお弁当の準備をしなくちゃいけない。
時間がかかるかもだけど、幸いなことに、ここは学園の寮。
多少遅くなっても、遅刻する可能性はほとんどない。

早く帰って、ご飯作ろう。

足早に、部屋に帰る。
日用品は、備え付けのクローゼットの中に入る。

さっそく、料理を始めよう!
私は、ひーちゃんみたいなプロ顔負けレベルの料理は作れないけど……そこそこのものは作れる。
お母さんやお父さんが出張でいない時に、料理本と実践でマスターしているから。

まずは、お弁当の準備を始める。
ハンバーグやきんぴらごぼうなどは、レンジで温めておく。
一から作ると時間がかかるから、ここは冷凍食品だ。

それらを温めている間に、卵を割って、解く。
味付けは、和風だし。
火をつけてフライパンを温め、そこに溶き卵を入れる。
その上に、切り刻んであるネギを散らす。
ある程度、全体に火が通ったら、少しずつひっくり返す。

それを2回繰り返して、和風卵焼きの完成。

お皿に移して、熱を取っている間に、ウインナーを焼く。
ジュージューと音を立てて、香ばしい匂いを漂わせる。

焼き終わって、こちらもお皿に移して冷ます。

冷ましている間に、レンジで温めた冷凍食品たちを出しておく。
まだ冷めていないため、待ち時間におにぎりを作る。
味は、梅と鮭の二つ。
三角の形を作って、整える。

あとは、お弁当箱に今作った品を詰めておく。

これで、お昼ごはんの出来上がり。

朝ごはんは、買ってきた惣菜パンを食べる。
制服に着替えて、準備完了。


部屋の鍵をかけて、教室に向かう。

教室に着くと、まだ生徒の姿が見えない。

時計を見ると、7時30分。
予鈴が鳴るのは、8時20分だから……まだまだ時間がある。

昨日配布された校内地図を見ながら向かった先は図書館。
実は、入学前からずっと気になっていたんだよね。

ドアを開けると、鈴の音が静かな室内に凛と響いた。

そして、目の前の光景に心奪われた。


図書館の中は、名門校の威信を象徴するかのように、圧倒的な広さと奥行きを誇っていた。
内装はまるで外国の古城を彷彿とさせる意匠で統一されていて、ロマンチックな風情が漂っていた。

何よりも、視界を埋め尽くす圧倒的な蔵書の数。

凄い……こんな光景、初めて見る!

あまりの蔵書の多さに、胸がときめく。
本棚を見ながら歩いてみると、読んでみたかった本が山のようにあった。

今は、本を一冊読み切る時間があるかないかぐらいだけど……お昼休みにもう一度来てみようかな?

しばらくは、目の前の光景を楽しみながら歩き回った。

本を読みたい気持ちがあるけど、我慢。
途中で終わっちゃったら続きが気になってしまうから。

そうこう過ごしているうちに、朝の予鈴が校内に流れる。

え、もうこんな時間!?
体感ではそこまで経っていなかったので、慌てて教室に戻る。

教室に入ると、ほとんどの生徒がいた。
各々、自由に過ごしている様子で……すごく賑やかだった。

でも、私が入った瞬間……先程まで聞こえていた声が一気に静まり返る。

……え、なんで?
私、なにかしちゃった!?

心当たりがなく、冷や汗をかく。

立ち尽くす私の耳に入ってきたのは、小さな声だった。

「ねぇ……あの子って、柊様の……」
「うん、多分。あの柊さまと仲がいい……」
「え、あの地味子が?あれ、嘘じゃなかったんだ」

詳しい理由は分からないけど……どうやら、ひーちゃんのことが関連している、らしい。
でも、なんでひーちゃんが出てくるんだろう?

不思議に思いながらも、席に座る。

そう言えば、ひーちゃんどこにいるんだろう?
もうそろそろ、HRが始まるはずだけど……遅刻かな?

その瞬間、教室のドアが開いた。
中に入ってきたのは、ひーちゃんだった。

あ、よかった……間に合ったんだ。

ひーちゃんはというと、私の姿を見つけると飛びつくようにこちらに来た。

「六花様!おはようございます。昨日ぶりですねっ」

満面の笑みで、隣に座るひーちゃん。

……って、席……隣だったんだ。

「おはよう、ひーちゃん。朝から元気だね」

私も、挨拶を返す。

すると、教室がざわざわと騒がしくなった。

「あの柊様が、あそこまで嬉しそうにするなんて……」
「明日、雨でも降るんじゃないか?」
「というか、柊さまが連続登校って……異常事態じゃないかっ」
「しかも、あの人間……柊さんに様呼びされてるぞ!一体何者なんだ」

その声を聞いていたひーちゃんが、睨むようにそちらを見る。
ひーちゃんを見た、その人達はすぐに怯えたように縮こもってしまう。

「ひーちゃん、睨んだら駄目だよ。これから一緒に過ごすクラスメイトなんだからっ」

あまりの怯えように、少しだけ可哀想になり軽めにひーちゃんに注意する。
ひーちゃんはというと、聞こえていたはずなのに無視していた。

どうしたんだろう……もしかしたら、あんまり生徒さんと仲良くないのかな?

クラスメイトの様子を見るに、みんな、ひーちゃんのことを怖がっているような。
でも、昨日は尊敬みたいな眼差しを向けられていたし……喜んでいる女生徒の姿もあった。

だから、余計によく分からない。

ひーちゃん、クラスメイトとはどんな関係なんだろう?


そんな時、教室に一人の男性が入ってくる。
年は、20代後半ぐらいの若い人で……多分、このクラスの担任。

しかし、よく見たらその人は私の寮の部屋を案内してくれた先生だった。

先生の登場に、生徒たちは一気に静かになり、席に座る。

「このクラスの担任となった月城蓮(つきしろれん)だ。担当教科は歴史。一年間よろしく」

簡潔な自己紹介を終えて、一礼する先生。
その姿に、近くの女生徒は小さな悲鳴を上げた。

「ねぇ、見た?あの先生……名前だけじゃなくって顔もかっこいい!」
「あの先生が担当なんて、いいクラス引いちゃった!」

喜びを含んだ声で、話し合う女の子たち。
たしかに、目の前にいる先生はモデルみたいにかっこいい人で、思わず喜んでしまうのも分かってしまう。

一方で、あやかしの人たちは……ほんの僅かに警戒心を持っている様子。

「月城蓮って……陰陽師の?」
「あぁ、現代最強の陰陽師って話だぜ」
「なんでそんな人がこの学園に?」

色んな声が聞こえてくる。
隣にいるひーちゃんを見てみると、心無しか殺気のこもった眼差しを向けている。

「最悪。よりによってあいつかよ」

言葉通り、表情にも嫌そうな態度が出ているひーちゃん。
私は、苦笑いをしながらその先生を見る。

綺麗な金髪の髪に、深緑色の瞳……幻想的な雰囲気を纏うその姿は、儚く……ふとした瞬間に消えてしまいそう。

それにしても、あの人……陰陽師なんだ。

陰陽師とは、古代日本で陰陽道に基づき、占いや天文観測、呪術などを行った国家公務員のことを指す。
簡単に言うなら……あやかしの敵みたいな存在。

今は、そんなことないけど……昔は多くのあやかしたちが彼らに祓われてきたから。

もしかしたら、ひーちゃんやあやかしの生徒のみんなは、本能的に怖いのかもしれない。

「じゃあ、あとは各自自由に。連絡事項もなし」

気怠げに言って、教室を出ていってしまう先生。
その姿に、見覚えがあった気がした。

先生がいなくなったあと、教室の緊迫した空気は薄れ、次第に明るい声が飛び交った。

だけど、私は……なんとも言えない違和感を抱いた。
あの先生、やっぱり何処かであった気がする。
でも、思い出せない。

「六花様?どうしたんですか?」

不思議そうにこちらを見つめるひーちゃんに気づき、笑ってごまかす。

「うんん、なんでもないよっ」

そう答えながらも、胸がモヤモヤとしながら、先生が出ていった方向を見つめる。

まさか、その先生が、自分の前世・氷花と深い関わりがあったことを……この時の私は知る由もなかった。