伝説の鬼姫さま、溺愛されています!〜地味子を演じて平穏に生きたいのに、最強のあやかし達が放っておいてくれません!〜

あの後、しばらく二人で話している間にひーちゃんが「私の入学祝いをしよう」と言い始めた。
私は、このあとは何も予定も入っていなかったから、二つ返事で行くことにした。
たった今ひーちゃんの寮の部屋に向かっている。

ひーちゃんは、あやかしだからもちろんあやかし専用寮。
本来なら私が入れることがないような場所なんだけど……私は、手違いでこの寮に入ることになっている。
理事長さんからのお願いで、誰にも言わないようにと頼まれているから……ひーちゃんには内緒だ。

きっと知ったら驚くだろうな。
でも、ひーちゃんは過保護だから……私の隣の部屋に引っ越すとか言い始めちゃいそう。

勝手にそんなことはできないだろうけど、それでもやりかねない子だから……。

「着きましたよ。少し、部屋の中が汚いかもですが……」

そう言ってドアを開けて、私を部屋に入れてくれた。

中は、物がとにかく少なくてきちんと収納されていた。
大きな本棚やテレビ、そしてその側に小さめなカレンダーがあるけど……ポスターなどはあまり貼っていない。
簡単に言うなら、シンプルで整っている部屋って感じ。

たしかに、テーブルに惣菜パンのゴミや空のペットボトルが置いてあるけど……これで汚いかもってひーちゃんの感性は変わっているのかもしれない。

「お好きな場所に座っていただければいいですよ。飲み物とかは、どうしますか?」
「あ、じゃあ……麦茶で」
「はい、すぐ用意しますね」

冷蔵庫から麦茶を出して、コップに注いだ。
そして、自分の分と一緒に、テーブルまで持ってきてくれた。

「ありがとう」

受け取って、ちびちびと飲み始める。
氷まで入れてくれて、冷たくて美味しい。
相変わらず、優しい気遣いができるところは……昔から何一つ変わっていない。

「ちょっとまだ何も用意できていないので……今から作りますね!」

そう言って、キッチンのほうへと消えていったひーちゃん。

一人きりになってしまった私は、部屋の中をウロウロと歩き始める。

それにしても……広い部屋だなぁ。
特に本棚とか、凄い。
色んなジャンルの本が綺麗に並んでいる。

文芸本や実用書、更にはビジネス・経済、専門書などの難しそうな本まである。

豊富な種類の本がある本棚に、胸を躍らせながら見つめる。
実は、私……本が大好きで、学校の休み時間や休日は図書館に行くほどの愛読家。


主に読むのは、恋愛小説とか友情や青春をテーマにした本だけど……それ以外にも料理の実用書とか、そういう本も読む。

だから、こんな大きな本棚と蔵書を見ると……胸がときめいてしまう。

ひーちゃんが戻ってきたら、読んでいいか聞いてみよう。

「すみません、六花様!少し、遅くなってしまいました」

貰った麦茶を飲みながら、待ち続けること一時間。
いい匂いが、キッチンのほうから漂ってきた。

とても、食欲が刺激されそうな美味しそうな匂いだった。

ひーちゃんが、お茶碗やお皿などを持ってきて、テーブルに並べていく。
量が多いのか、キッチンとリビングを行き来しているひーちゃん。

「大丈夫?なにか、手伝えることある?」

料理まで作ってもらったのに、手伝わないのは気が引ける。
なにか、少しでもいいから役に立ちたいと思ったけど……。

「今日は、六花様の入学祝いをするんですから!主役は大人しく座っててください」

そう言われて、リビングに戻されてしまった。

多分、もう一回行っても同じ結果になっちゃうだろうから……大人しく待っていることにした。

それから数回、キッチンとリビングを行き来して、全ての料理を持ってこれたのかひーちゃんが戻ってきた。


「ごめんね、ひーちゃん。料理から、準備まで何もかも任せちゃって……」
「いいえ、むしろ全部僕に任せてください!六花様の助けになれることが、僕の幸せなので」

太陽みたいに明るい笑顔で、そう言ってくれるひーちゃん。
昔よりも、頼りになっているような……大きくなったなぁ。

「あはは……流石に、全部は申し訳ないよ。でも、困ったときはひーちゃんに頼ってもいい?」
「はい!頼ってください。六花様のためなら、なにがなんでもやり遂げてみせます」

本気なのか、冗談なのか分からないけど……成長したひーちゃんを見て、胸が温かくなった。

あ、そういえば……まだひーちゃんの料理、見れていない。
美味しそうな匂いがしてたけど、何作ったんだろう?

気になって、テーブルに寄って見てみると……驚きすぎちゃって、言葉が出なかった。

テーブルには、和食や洋食……更には中華料理まで、たくさんの料理が並んでいた。
しかも、全部がプロの料理人が作ったのではないかと思うほどの仕上がりで……。

ひーちゃん、凄すぎる。
こんな多いのに本格的な料理を、自分で作れるなんて……それに、時間も僅か一時間ちょいなんて……天才すぎる。

「六花様の好きな物が分からなくって……色々と作ってみたんです。お口に合えばいいんですが……」

困ったように笑いながら、なんともないようにそんなことを言うひーちゃん。

もしかしたら、ひーちゃんにとってはこれは朝飯前ってところなのかな?
たしかに、昔から料理上手だったけど……次元が違いすぎるよ!

「い、いただきますっ」

びっくりしながらも、お腹が空いていた私はひーちゃんの料理を恐る恐る食べる。
……っ!美味しい!

食べる前から本格的で、間違いなく美味しいのは分かっていたけれど……食べてみるとまた、ひーちゃんの料理の腕前がどれほどのものか、身に沁みて分かった。

本当に、プロの料理人が作ったって言われてもおかしくない。
むしろ、納得がいくぐらいの仕上がりだった。

「凄く美味しいよっ。ひーちゃん、料理人目指したら?」
「いいえ。僕の腕前じゃ、料理人なんてまだまだですよ」

謙虚な言葉を言いながら、自分の作った料理を食べ始めるひーちゃん。

これでまだまだって言っちゃうなんて……ひーちゃん、レベルが高すぎるよ〜。
私なんて、こんな料理は作れないし……出来たとしても、ド素人レベルの実力のご飯しか作れない。


本当に、本当に、美味しい。
食べる手が止まらない。

そのまま、色んな料理を食べて、お腹いっぱいになるまで食べた。

久しぶりに、こんないっぱい食べたかも。

「もうそろそろ、寮の部屋に帰ったほうがいいですよ」

ひーちゃんに言われて時計を見ると、時刻は午後7時45分。

すっかり空も暗くなって、生徒は寮の部屋で各々過ごしている頃合い。

まだこの部屋にいてもいいかもだけど……明日から初めての授業も始まるし、準備して早めに寝ておきたい。
特に今日は疲れたからぐっすり眠れそうだ。
あ、寝る前に両親に電話しておこう!

今日、理事長さんに言われた高校の件をどうするべきか、話し合いたいし……。

「そうだね、もう少ししたら帰ろうかな」
「はい、そうしてください。今日は疲れたでしょうからゆっくり休んでください」
「ねぇ、ひーちゃん。今度、ここの本棚の本読みたいから……また来てもいい?」

私の言葉を聞いて、目を見開くひーちゃん。
ん?どうしたんだろう。

「はい、是非来てください。いつでも待っていますから!」

嬉しそうに了承してくれたひーちゃん。
なんだか……犬みたいで可愛い。
もしかしたら、ひーちゃんみたいな子を犬系男子とか言うのかな?

「あ、もうそろそろ帰ろうかな。またね、ひーちゃん」

荷物を持って、玄関に向かう。
ひーちゃんは、慌てて私についてくる。
お見送りしてくれるみたい。
疲れているだろうから、そこまでしなくても大丈夫だけど……それを言ったら拗ねちゃいそうだから言わないでおこう。

「六花様、一人で大丈夫ですか?僕が部屋の前まで送っていっても……」

ドアの前で、心配そうにそう言ってくれるひーちゃん。

流石にそこまでしてもらうのは申し訳ないし……それに、私があやかし専用の寮にいることがバレちゃうから、断っておいた。

そうしてお別れをした後……私は、他の生徒さんに気づかれないように忍び足で裏口まで向かった。


裏口に到着すると、一人の先生が立っていて、私が来ると爽やかな笑みを浮かべた。

「白咲様ですね。わざわざ来てくださりありがとうございます。今からお部屋に案内しますね」

そう言って背を向けて歩き始める先生。
私は、その後をついていく。

歩き続けること5分。

到着したらしく、私の部屋の前で止まってくれた。
最上階ということもあり、裏口までの道のりが少し遠い。

「ここが白咲様のお部屋になります。今日でなくてもなにか困ったことがあれば理事長か、私に相談してください」

先生は、私に名刺と電話番号が書かれた紙を渡して、踵を返した。
私は、先生の背中に一礼して部屋の中入った。

部屋の中には、既に引っ越し業者から届いた荷物を入れた段ボールが置いてあった。
広さは、一人暮らしにしては十分すぎるほどで、本当にここで暮らすんだと少しずつ実感する。


荷解きは、明日……授業が終わった後でしよう。

私は、今日配布された教科書を既に設置されていた本棚に並べる。

それから、変装を解く。大きなメガネとカラコン、ウィッグを取ると、やっと本来の自分に戻った。
今日が初めてということもあり、変装には違和感しかないけど......慣れればそうでもないのかもしれない。

そして、シャワーを浴びて歯磨きをして……カバンに明日、授業がある教科の教科書やノートを入れる。

うん、これで準備は終わった!

あとは、両親に電話しないとっ。

スマホの電源をつけてLINEを開く。
お父さんの連絡先を見つけて、電話をかける。

すると、すぐに通信が繋がった。

「もしもし、六花!学校はどうだ?楽しいかっ」

夜とは思えないほど、大きな声を出して電話をするお父さん。
ここまで元気でハイテンションなのは、珍しいかも。

「もしもし、お父さん。学校は楽しいよ。お友達もできたよ」
「そうか〜よかった。お父さん安心したぞ」

相変わらず親バカを発揮するお父さん。
私、これでも高校生なんだけどなぁ。

「それで、どうした?こんな時間に電話なんて……」

お父さんが不思議そうに問いかけてきた。

「あ、実はね……」

そこから、私は理事長さんに言われた内容を簡潔にお父さんに伝える。
あまりに衝撃的な内容に、途中途中「六花を不安にさせた理事長を訴えるべきじゃないか?」なんて物騒な言葉が出てきてた。

お父さん……絶対に駄目だからね?

「そういうことで、学校選べるみたいなんだけど……どうしたらいいのかな?」

ひーちゃんに聞いたときのように、高校をどうするべきか聞くと……。

「六花の好きなようにすればいい。お父さんも、お母さんも六花の意見を優先する」

愛情の詰まった優しい言葉に、嬉しさが込み上げてくる。

お父さんは、こういう時にしっかりしてて頼りがいがある。
普段は親バカで、お母さんと私が見てあげないとすぐになにかしてしまいそうで、不安を感じるのに……。

だけど、お父さんの言葉を聞いて少しだけ悩みが薄れた気がする。

「うん、分かったよ。ありがとう……お父さん」
「いいんだよ。困ったときはいつでもお父さんに言ってくれ」

ひーちゃんと同じようなことを言っているお父さんに、少しだけ笑いながら電話を切る。

自分の好きなように、か……。

まだ、この学園のこと何も知らないし、今すぐには決めれそうにないけれど……私は、私が好きなように選ぼう。

きっと、それが正しい道だから。

とりあえず、まだまだ考える時間は十分にあるんだから……もう少しこの学園のことを知ってから決めよう。

私は、電気を消して布団の中に潜る。
目を閉じて、明日からの高校生活を想像しながら、深い眠りにつくのだった。