伝説の鬼姫さま、溺愛されています!〜地味子を演じて平穏に生きたいのに、最強のあやかし達が放っておいてくれません!〜

「開式の辞。只今より国立・八百万学園の入学式を執り行います」

理事長さんとの密談を終えた30分後。
長い時間を待ち始まった入学式。
一人の男性……多分、教頭先生と思われる人が進行の挨拶をした。
先生の声が、講堂に響き渡る。
私は背筋を伸ばして、先生を見る。

ここから、私の高校生活が始まるんだ。

高校生になった実感が少しずつ湧いてきた。

これが終われば教室に戻って、教科書の配布や校内案内をする。
そして、それら全てが終われば今日は終了。
あとは各自、自由に過ごせる時間になる。

本当なら今日、その時間を使ってバイト探しでもしようと思ってたんだけど……理事長さんとの密談で疲れちゃったから休もう。
あ、でも……ひーちゃんにまだ密談で言われたこと伝えられていないんだ。
寮のことは内緒にって理事長さんに言われたけど……高校をどうするか聞くぐらいなら大丈夫、だよね?
校内案内が終わった後にでも話しておこう。

そうこう考えている内にも、入学式はプログラム通り進んでいく。
国歌・校歌斉唱、校長先生の式辞が終わって、今は来賓祝辞の最中。
これが終わったら、あとは学園代表挨拶と担任発表・教職員紹介だけとなる。

少しだけ、不思議に思っていたけど……学園代表挨拶ってなんだろう?
まだ、新入生や在校生の方が挨拶することならあるけど……。
学校全体の代表って……あんまり聞いたことない。

ひーちゃんに理事長さんとの密談のことを話すついでに、聞いてみよう!

そんなことを考えている内に、来賓祝辞が終わった。

もうちょっとしたら、終わるなぁ。
あと少し、頑張ろう。

最後のひと踏ん張りをして、先生を見つめる。

ちょうど、代表挨拶に入った。

「学園代表挨拶」

先生の言葉を合図に、一人の男の人がゆっくりと、舞台に上がった。

その姿を見て、思わず声を出してしまいそうだった。

綺麗な黒髪に、紅い瞳……そして、端正な顔立ちを持ったその人は、間違いなく私を理事長室まで案内してくれた生徒さんだった。

また会ったときにでもお礼しようって考えていたけど……こんなすぐに会えるなんて。

さっきも見たけど、綺麗な人だなぁ。

かっこいいのに、美しさも感じてしまう容姿。

あまりの美しさに、周りの生徒も見惚れて、はぁっとため息をついているのが聞こえた。

「学園代表、鬼城 夜霧(きじょう よぎり)」

突然、講堂の雰囲気が変わった。
彼の名前が呼ばれた瞬間、あやかしの人たちが姿勢を正す。
真っ直ぐと彼を見つめるその眼差しは、羨望と憧れに満ちていた。

対照的に、人間の……特に女の子たちが一気にざわつき始める。
四方八方から黄色い悲鳴まで聞こえてくる。

「見て、鬼城様よっ」
「本当……初めて見た!」
「写真でしか見たことなかったけど……実物、かっこいい」

さ、「様」呼びっ!?
同じ学校の生徒なのに「様」呼びって……きっと凄い人なんだろうなぁ。
まるで、有名人のような扱いだ。

しかも……鬼城って、理事長さんと同じ名字だ。
もしかしたら、息子さんなのかも。

「――新入生の皆さん、この度は入学おめでとうございます」

スタンドマイクの前に立った彼は、無表情のままスピーチを始めた。
歓迎の言葉にしては、声は冷たく……用意されたセリフを淡々と読んでいるように聞こえる。

「一日でも早く我が校に、ふさわしい行いを心がけれるように応援しています」

その言葉を最後に、挨拶が終わったらしく、鬼城さんと呼ばれた彼は一礼して舞台を降りた。

それからは、担任発表・教職員紹介をされて、予定通りに入学式は終わったのだった。





「はぁ?国と学園のミスで、入学した!?」

入学式が終わったあとに行われる、教科書の配布と校内案内が終了し、自由時間になった。
ひーちゃんに、理事長さんから伝えられたことを伝えると驚愕した顔で私を見つめる。

やっぱり、そうなるよね。
私も理事長さんから聞いたときは、きっとこんな顔をしていたんだろうな。

「うん、だから特別に入学が許可されたみたいなんだけど……行きたい高校があればそこでもいいって言われて……どうすればいいかな?」

理事長さんから言われてから、この時間まで悩み続けていたことをひーちゃんに相談する。

「絶対にこの学園にしてください!!」

悩むことなく、即答されてしまった。

「えぇ……絶対?」
「当たり前じゃないですか!せっかく……六花様に、会えたのに」
「それは、そうだけど……そんな簡単に決めて、いいのかなって……」
「六花様、僕から離れないでください……一人なんて、嫌です」

まるで、捨てらてた子犬のようにこちらを見つめてくるひーちゃん。
きっと、耳と尻尾があったら垂れ下がっているんだろうな。

でも、確かにひーちゃんと同じ学校だったのは嬉しかったし……一緒に通いたい。
せっかく、会えたんだから離れたくないよね。

「う〜ん……家族にも相談してみて、しっかりと意見聞いてから決めようかな?」
「そうですか……。分かりました。報告、待っていますね」

少し悲しそうにそう言ってくれるひーちゃん。
昔から、私のことを第一に考えてくれる癖は抜けておらず、ここでも私の意見を優先してくれた。
優しいなぁ……自分が悲しいのに、我慢してくれているなんて。
私も、出来る限りこの学園に通えるように家族に交渉してみよう!

「あ……そう言えば、気になっていたことがあるんだけど……聞いてもいい?」
「はい!僕でよろしければ何でも!」

頼られたことが嬉しかったのか、声のトーンが上がった気がする。
ふふ……相変わらず、ひーちゃんは可愛い。
本人に伝えたら「子ども扱いしないでください!」って怒られちゃうから内緒にしておこう。

「入学式であった学園代表挨拶だけど……学園代表ってどういうことなの?」
「あぁ、あれですか。六花様は、今年が初めてだから違和感を覚えたんですね」

反応を見るに、ひーちゃんは何か知っているらしい。

「学園代表っていうのは、そうですね……簡単に言えばこの学園の生徒全体の代表ってところですね。要するに、学園で一番優秀で権力がある人なんですよ」
「そうなんだ……!じゃあ、今日の入学式で呼ばれてた鬼城さんって、凄い人だったんだね」

私、そんな凄い人に案内役をさせていたなんて……他の人に知られたら怒られちゃいそう。

「まぁ、あの人はあやかし界でもトップに立つような人だから当然ですね」

え……あやかし界でも、トップ?

「それって、もしかしてだけど……あの人も、あやかしなの?」
「はい、そうなります」

そうだったんだ……あの人も、あやかしなんだ。
少しだけ驚いたけど、納得しかない。
だって、あんなに綺麗な人なんだもん……あやかしじゃないほうが、おかしいよね。

それに、学園の代表に選ばれるぐらいなんだから……その時点で気づけなかったことが駄目だよね。

でも、あの人……学園でもあやかし界でもトップに立つだなんて、本当に凄い人なんだなぁ。

まさに、雲の上の存在っていう言葉が似合いそうな人だな。


「まぁ、僕は心底どうでもいいですけど……あの人には出来る限り、近づかないでくださいね」
「え……どうして?」

近づかないでって……まだ、案内してくれたお礼もできていないのに。

「当たり前じゃないですか!あやかしってだけでも近づけたくないのに、あの男は……。とりあえず、バレたら大変なので絶対に近づかないでください!」

切迫した表情で、私に接近禁止を伝えるひーちゃん。

えぇ……どうしよう。会ってお礼を伝えたいのに……。
ひーちゃんには申し訳ないけど、こっそり会おうかな?

「六花様、本当に近づかないでくださいね。あの男……極度の女嫌いなので、近づいてくる女には容赦ないですし、危ないので……いいですね?」
「わ、分かったよ!なるべく近づかないようにするからっ」

私の言葉を聞いて、安心したのか……その後、ひーちゃんが何か言いつけてくることはなかった。

それにしても、あの人……女の子嫌いなんだ。
もしかしたら、お礼を伝えるの……迷惑かも。

女の子が嫌い人に、わざわざ近づいてお礼を伝えるなんて、相手からしたらすごく嫌なんだろう。

結局、ひーちゃんから言われたこともあり、お礼の件はどうするべきか分からず後回しとなった。

伝えられるときに、伝えよう!

そう考えて、一旦この件は忘れることにした。