伝説の鬼姫さま、溺愛されています!〜地味子を演じて平穏に生きたいのに、最強のあやかし達が放っておいてくれません!〜

「ど、どうしようっ」

広い廊下で一人、頭を抱えて立ち尽くす私。
さっき放送で職員室へ来るように伝えられて、急ぎ足で向かっていたんだけど……いつの間にか迷子になってしまった。

でも、よく考えてみたら当たり前のことだった。
今日初めて来た学園の校舎の中なんて……知っているはずもない。
もちろん、校舎の案内などは入学式が終わったら各クラスごとに回る。
だけど、まだ入学式すら始まっていないし……何も知らない私は職員室の場所など分かるはずもなく同じ道を行ったり来たりしている。

このままじゃ、職員室に辿り着けない!

どこかに、校内案内表と呼ばれる地図が貼ってあったけど……それすらどこにあるのか分からない。
なすすべもなく途方に暮れる。

唯一、この状況から脱することができるなら、それは先生か生徒が通ってくれた時だけだと思い、廊下に座り込んで人が来てくれるのを待つ。


こうして一人きりになると……マイナスな気持ちを感じ始める。
不安で、怖くて……寂しい。
誰か、助けて。


「おい、お前……何やっているんだ」


冷たい声が廊下に響いた。
膝から顔を上げ、上を見上げる。


視界に、一人の男の人が入ってきた。
漆黒の髪が光を受けて輝き、深紅の瞳が夕陽を浴びた宝石のように輝いていた。
整いすぎた顔立ちは、この世のものとは思えないほど美しかった。
ううん……美しい、なんて言葉では足りない。人間の美の極限を超えた何かがそこにあった。
息を忘れて、見惚れてしまう。

かっこいい人だなぁ……モデルみたい。
こんな綺麗な人、初めて見る。

私が顔を見続けていると、舌打ちをしてこちらを睨みつける。

「ジロジロ見てんじゃねぇーよ。気持ちわりぃ」


地の底から出したかのような低く怖い声。

さ、流石にジロジロ見るのはよくなかったかも。

「す、すみませんっ!」

即座に頭を下げて、謝罪をする。
すると、彼は、驚いたように目を見開いて視線をそらす。

「謝ってんじゃねーよ。……お前が、白咲六花で合ってんのか?」

その言葉に、びっくりしながら頷く。
なんで、名前……知っているんだろう?

不思議に思って首を傾げると私の反応に気づいたのか、苛立ちながらも丁寧に答えてくれた。

「理事長に頼まれたんだよ。いつまで経っても職員室に来ないから迎えに来た」

そう言って、背を向けて歩き始める彼。

どうやら、ついてきてって意味なのかな?

そう解釈して、彼の背中に着いていく。
歩き続けること3分。


目の前には、豪勢な扉が私を迎え入れる。

ここ、どう見ても職員室じゃないよね?

びっくりしながら辺りを見渡すと上の方に「理事長室」と書かれていた。

「なんで理事長室?」って思ったけど、さっき彼が理事長に頼まれて迎えに来たって言ってたのを思い出した。

私、理事長さんに呼び出されるようなことしちゃったのかな?

緊張と不安を感じ、扉の前で立ち止まる。
そんな私を見て、訝しげにこちらを見つめる彼だったがすぐに踵を返す。

「じゃ、あとは自分でどうにかしろ」

その言葉を残し、歩き去っていく。

あ、お礼……まだ言えていない!

ここまで案内してくれたのに、お礼を言わないなんて駄目だよね?

だけど、色々と考えている内に彼は居なくなっていた。

なんだか、申し訳ないな。

でも、同じ学校の生徒さんだからいつか会えるよね?
その時に、お礼しよう。

とりあえず、今は理事長さんとのお話をしないと!

彼への申し訳なさを感じながらも、私はノックして理事長室に入った。

「し、失礼します……!」

緊張からか声が裏返ってしまった。

は、恥ずかしい。

だけど、今はそんなこと気にしている場合じゃないだろうから忘れよう。

理事長室の中は、本当に凄すぎて……開いた口が塞がらない。
貴族が住んでいるって言っても過言ではないくらい豪華な場所。

シャンデリアとかあるし……高級そうな椅子やテーブルもある。

あまりにも凄すぎる光景に失礼なぐらい辺りを見ていると、少し奥にあるテーブルに一人の男性がいた。
静かに座って私を見つめるその姿は威厳を感じさせるオーラがあった。
理事長にしては、若そうな男性だけど……多分、この人が理事長さんで間違いない。

「は、はじめまして……白咲六花と申します!」

どうすればいいのか分からず、自己紹介を始める私。
その姿を見て、男性は先程までの威厳ある雰囲気からにっこりと微笑んで親しみやすい雰囲気になった。

「君が白咲さんか。初めまして、理事長の鬼城です。忙しい中来てくれてありがとう」

優しい笑みを浮かべたまま綺麗なお辞儀をする男性。
やっぱり理事長さんだった。

「い、いえ……まだ入学式も始まっていないので大して忙しくありませんよっ」
「あはは、そうか。なら、よかった」

意味の分からないあやふやな私の発言にすら、紳士に答えてくれる理事長さん。
きっと、いい人に違いない。

そう思いながら、私は早速本題に入る。

「あの……急なんですけど、なんで私は呼び出されたんですか?」

ずっと疑問に思ってたことを直接伝えると、申し訳なさそうに顔をしかめた理事長さん。

「あぁ、そのことについてなんだが……実は、こちらに誤りがあって。とりあえず、座ってくれるかい?」

理事長さんに促されて、恐る恐る座る私。

一体今から何の話をされるんだろう?

心臓が素早く脈打ちながらも、理事長さんの次の言葉を待つ。
すると、理事長さんは恐縮した様子で話し始める。

「実は、2つあるんだが……落ち着いて聞いてほしい」

その言葉に、不安を感じた。
そして、次の言葉に私は愕然した。

「君の特別推薦なんだが……あれは手違いだった。君は推薦されていなかったんだ」
「え?手違い?つまり、私は……この学園に入学しなくても、よかったんですか?」
「……そういうことになる。本当に、すまなかった」

深々と頭を下げる理事長さんを見ながら、私の頭はパニック状態になった。

だって、国からの推薦だから強制入学させられたのに……。
それが、手違いだったなんて。
どうすればいいんだろう……というか、これからどうしよう。
本来、この学園は国からの推薦がある人間しか入れないし……私、退学かな?
そしたら、私の高校生活……どうなるんだろう。

色んなことが頭をよぎる。
元々、この学園には通うつもりもなかったけど……すぐに退学なんて出来ないし、されても困る。

理事長さんは、私の様子を見て心情を察したのか心配そうに見つめる。

「突然言われても困るのは分かっている。ただ、国からの指示で本人に伝えなくてはいけなくてな……しかし、安心してほしい。今すぐ退学とか、そういうわけではないんだ」

理事長さんの言葉を聞いて、私は少しだけ頭のパニック状態が落ち着く。

今すぐ退学ではない?
それって……この学園にいてもいいのかな?

不思議そうに見つめる私を見て、理事長さんは話を続けた。

「元を言えば、こちらと国の間違いで強制入学させられたんだ。だから.....私たちは、君の入学を特別に許可する方針となった。つまり、この学園を出なくてもいい。……ただ、もしも行きたかった高校などがあったら伝えてほしい。その時は、こちらが取り合って入学させる」

最後まで言いきった理事長さんの言葉に、私は戸惑いを隠せなかった。

そ、そんな大事になってたんだ。
それに、私のために優遇な待遇まで用意されていたなんて……すごく申し訳ない。
でも、ここで断ってしまうのも迷惑かもだから、お言葉に甘えよう。
この学園に居続けるか、別の高校に通うかは私ひとりの問題じゃないだろうし……また後日お話させていただこう。

「ありがとうございます。高校のこと……もう少しだけ考えさせてもらってもいいですか?」

私の言葉に、頷く理事長さん。
許可が降りたみたい。

それにしても……国からのミスで、この学園に入っちゃったなんて。
驚いちゃったけど、起こったことに文句を言っても仕方ないもんね。
今は、将来のことを考えておこう。

とりあえず、このお話はここでおしまいかな?

「あの……2つ目は、何でしょうか?」

私の言葉を聞いて、理事長さんは気まずそうに私から目を逸らして話を始めた。

「2つ目は……その、入学時の手続きのミスで……君が入寮する場所が、あやかし専用の寮になっていることが分かったんだ」
「あ、あやかし専用の寮……ですか?」
「あぁ……本来なら人間が入ることがないんだか、今年は新入生がいっぱいで、空きがなくって……すぐには寮の移動ができないんだ。だから、しばらくの間はあやかし専用の寮で過ごしてほしいんだ」

あまりの衝撃的な発言に……私は目を見開いて固まった。

あやかし専用の寮に、入寮!?
それって……色んな理由で駄目なんじゃ……それ以前に、どうしたらそんなことが起こっちゃったんだろう。

考えても全然わからないけど、何かあったからこそこのような事態になっちゃったのは間違いない。
けど……本当に大丈夫なのかな?
人間の私が、そんな場所に入るなんて。

「その……それは、大丈夫なんでしょうか?」

私の疑問に、理事長さんは困ったように笑いながら話を進める。

「本来は駄目なことなんだが緊急事態で……しかし、出来る限りバレないように、このことは誰にも言わないでほしい」

や、やっぱり……駄目なんだ!
本来なら人間があやかし専用の寮で過ごすこと自体ありえないことだもんね。
仕方ない……寮の移動が済むまでの間は誰にもバレないように過ごそう。

「一応、君に住んでもらう場所は寮の最上階で、出入り口は手間がかかってしまうが裏口から入ってほしい」
「わ、分かりました。なるべく他の生徒さんたちにバレないように気をつけますね!」
「あぁ、助かるよ。まぁ、最上階にはほとんど住んでいる生徒もいないし……バレることはないだろう。他にも、寮のことや学園のことでなにか困ったことがあればいつでも私を頼ってくれ」
「はい、ありがとうございます」

お礼を言って、話を終わらせる。
理事長室を出る前に、寮のことについてや寮の部屋まで案内してくれる先生との待ち合わせ場所などを教えてもらった。
再び、お礼を伝えて、お辞儀をして理事長室を出る。
こうして、衝撃的で予測不能なことだらけの理事長さんとの密談を終えるのだった。