奈津は声の大きさを抑えながら、熱中症の日の出来事を簡単に話した。

偶然助けてもらったこと。

家まで送ってもらったこと。

看病してもらったこと。

今日もサイン会で倒れそうになった悠真を支えてくれたこと。

春空は黙って話を聞いていた。

話し終わる頃には、もう一度莉麻へ視線が向く。

ちょうどその時。

眠っていた悠真が小さく身じろぎした。

悠真「……莉麻ちゃん。」

寝言のように、小さく名前を呼ぶ。

その声に莉麻はすぐ反応した。

莉麻「大丈夫ですよ。」

そっと手を握り返す。

莉麻「私はここにいます。」

その一言だけで。

悠真の表情がふっと和らぎ、また静かな寝息を立て始めた。

その光景を見た春空は、小さく息をのむ。

……すごい。

名前を呼んだだけで安心するなんて。

俺たちでも、こんな悠真見たことない。

病室は静かなままだった。

けれどそれぞれの胸の中では、少しずつ新しい感情が動き始めていた。