スタッフ専用通路を歩く。

帽子を深くかぶり、マスクをつける。

少しでも気づかれないように。

奈津が悠真の隣へ並ぶ。

奈津「車、すぐ来る。乗ったら病院な。」

悠真「……家で寝たら治る。」

奈津「治らねぇよ。」

思わずため息が漏れる。

その時だった。

悠真は何気なく顔を上げる。

通路の先。

出口の近くで、こちらを見ている一人の女の子。

……莉麻ちゃん。

まだ帰ってなかったんだ。

目が合う。

莉麻も驚いたように立ち止まる。

悠真の胸がふっと温かくなる。

自然と口元が緩んだ。

悠真「……莉麻ちゃん。」

小さく名前を呼ぶ。

その声に気づいた莉麻は、ぱっと表情を明るくして悠真の方へ駆け出した。

その姿を見つめながら、悠真も一歩踏み出す。

――会えた。

もう一度。

その安心が、張りつめていた気持ちを一気にほどいてしまうことを、この時の悠真はまだ知らなかった。