スタッフがそっと合図を送る。
次の人が待っている。
本当なら。
「ありがとうございました。」
そう言って立ち上がるだけの数十秒。
それがサイン会だ。
でも、莉麻はどうしても席を立てなかった。
目の前の悠真を見ていると、不安ばかりが大きくなる。
莉麻「悠真くん。」
小さな声で名前を呼ぶ。
悠真は優しく目を合わせた。
悠真「うん?」
莉麻「……まだ、体調戻ってないですよね。」
その一言に、悠真のペンが一瞬だけ止まる。
やっぱり気づかれた。
周りのファンは誰も気づかなかったのに。
この子だけはまた気づいてしまう。
悠真は困ったように笑う。
悠真「そんなことないよ。」
莉麻「嘘です。」
思わず言葉がこぼれた。
強く言うつもりなんてなかった。
でもあの日の悠真を見ているからこそ分かる。
今も無理をしていることが。
莉麻「笑ってるけど……すごく無理してる顔です。」
悠真は何も言えなかった。



