人通りの少ない路地へ入ると、蝉の鳴き声だけが耳に残った。
歩いて数分。
大きな木が作る日陰に、小さなベンチがひとつ置かれている。
莉麻「ここなら……。」
誰もいないことを確認して、そっと悠真を座らせた。
莉麻「少し休みましょう。」
腰を下ろした悠真は、深く息をつく。
それだけの動きなのに、まだ苦しそうだった。
……やっぱり熱中症だ。
鞄を開けると、朝コンビニで買ったペットボトルの水が目に入る。
まだ一度も開けていない。
キャップを開けて、悠真へ差し出した。
莉麻「新品なので安心してください。少しずつでいいので、飲めますか?」
悠真は一瞬だけペットボトルを見つめ、それから莉麻を見た。
悠真「……ありがとう。」
震える指で受け取り、小さく口をつける。
ごく、ごく……。
喉が鳴る音が静かな木陰に響いた。
少し飲んだだけなのに、さっきより呼吸が落ち着いた気がする。
よかった……。
少しだけ、安心した。
でもまだ顔色は白いままだ。



