莉麻「少し動けそうですか?」
静かな声だった。
急かさない。
責めない。
ただ、本当に心配している声。
悠真「……うん。」
動くために振り返って1歩足を踏み出そうとした途端、視界がぐらりと揺れた。
しまった。
足に力が入らない。
倒れる。
そう思った瞬間だった。
抱きとめられた。
莉麻「ゆっくりで大丈夫です。」
細い腕なのに、不思議なくらい安心した。
莉麻「人が少ないところまで行きましょう。誰にも気づかれないようにします。」
その一言に、思わず彼女を見る。
悠真「……なんで。」
莉麻「え?」
悠真「俺だって分かってるのに……。」
「写真撮らないの」とか、「嬉しくないの」とか。
そんな言葉が喉まで出かかった。
でも、口にできなかった。
彼女の優しい目を見たら、そんなこと聞く方が失礼な気がして。
莉麻「もちろん会えたことは嬉しいです。私、VELIXのファンですから。」
少しだけ照れたように笑ってから、続ける。
莉麻「でも……今の悠真くんを困らせるようなファンには、なりたくないです。」
その言葉が、胸の奥へ静かに落ちていく。
……なんなんだ、この子。
苦しくてまともに考えられないはずなのに。
それでも、ひとつだけはっきり思った。
──少しだけ。
この子を、信じてみたい。



