撮影開始の時間が近づき、莉麻は名残惜しさを隠すように時計を確認した。

莉麻「悠真、そろそろ行かないと」

悠真「……うん」

悠真は素直に身体を起こした。

けれど、立ち上がった直後。

ほんの少しだけ、ふらつく。

莉麻「……悠真くん?」

咄嗟に腕を掴む。

悠真は一瞬驚いたあと、莉麻の手を見て、ふっと笑った。

悠真「大丈夫」

莉麻「本当に?」

悠真「うん。ちょっと休んだから平気」

そう言って歩き出そうとする。

けれど莉麻は、その腕を離さなかった。

悠真「……莉麻ちゃん?」

莉麻「念のため。撮影中に無理されたら困るから」

悠真「……そっか」

悠真は嬉しそうに笑った。

そのまま二人で控室を出る。

廊下を歩きながら、莉麻はふと気づいた。

自分の手がまだ、悠真の腕に触れたままだ。

慌てて離そうとした、その瞬間。

悠真が小さな声で言った。

悠真「……そのままでいいよ」

莉麻「え?」

悠真「なんか……安心するから」

まただ。

また、悠真はそんなことを言う。

莉麻は頬が熱くなるのを感じながら、結局その手を離せなかった。

少し前を歩いていた奈津が、二人の姿に気づく。

その表情が、一瞬だけ止まった。

けれど何も言わず、静かに前へ向き直る。

一方で莉麻は――

悠真の隣を歩きながら、自分の胸に手を当てた。

――どうして。

こんなに、この人の言葉が嬉しいんだろう。

まだ答えは出ない。

それでも昨日までとは確実に違う何かが、莉麻の中で動き始めていた。