少し離れた場所では、奈津と春空がその様子を見ていた。

春空は何も言わない。

奈津も、静かに視線を逸らす。

二人とも分かっていた。

悠真が莉麻にだけ見せる顔。

そして莉麻も、悠真の前では少し違う。

春空が暗闇の中で莉麻に抱きしめられたときとは違う。

奈津が莉麻の肩に寄りかかったときとも違う。

莉麻自身が、悠真に触れるときの表情が違っていた。

その頃、莉麻はまだ気づいていない。

自分が悠真の髪を撫でる手が、いつの間にかとても優しくなっていることに。

悠真「……莉麻ちゃん。」

莉麻「なに?」

悠真「もう少しだけ、このままでいていい?」

莉麻は一瞬だけ悠真を見る。

そして――自然に笑った。

莉麻「うん。」

その返事は、迷いがなかった。

悠真は安心したように目を閉じる。

莉麻もまた、彼の髪をゆっくり撫でる。

その瞬間。

莉麻の胸の中に、ひとつだけ小さな感情が浮かんだ。

――この時間、嫌じゃない。

むしろもう少し、このままでいてほしい。

それが恋だと気づくには、まだ少し早い。

けれど莉麻の心は確実に――

悠真のほうへ、ほんの少しずつ動き始めていた。