「特に」という言葉だけが、頭の中に残っていた。

悠真は思わず莉麻の顔を見る。

けれど莉麻は、自分がどれほどのことを言ったのか分かっていない。

ただ純粋に、心配しているだけだった。

悠真「……そっか。」

小さく笑う。

けれど、その頬はほんの少し赤い。

そんな二人を見ながら、奈津は黙っていた。

さっきまで莉麻の肩に頭を預けていた自分。

そして今、悠真が莉麻の袖を掴んでいる。

どちらも同じように、莉麻を求めている。

その事実に気づいてしまった。

――悠真も、莉麻ちゃんが好きなのかもしれない。

そう思った瞬間、胸の奥が少し苦しくなる。

けれど、奈津は視線を逸らさなかった。

自分の気持ちを自覚した今、もう見ないふりはできなかった。

奈津「……悠真。」

悠真「ん?」

奈津「莉麻ちゃん、借りてもいい?」

悠真の指が、莉麻の袖を掴んだまま止まる。

悠真「……え。」

莉麻も驚いて奈津を見る。

奈津はいつもの落ち着いた表情をしていた。

けれど――ほんの少しだけ、いつもより真剣だった。

奈津「仕事のことで確認したいことがあるんだ。」

悠真「……仕事?」

奈津「うん。」

一瞬の沈黙。

悠真は奈津を見る。

奈津も悠真を見る。

言葉にしていない。

けれど、二人の間には確かに何かが生まれていた。

そんな空気に気づかず、莉麻だけが困ったように二人を見比べる。

莉麻「えっと……私、どっちに行けばいいの?」

その言葉に、春空が小さく吹き出した。

春空「……莉麻ちゃん、ほんと鈍いね。」

莉麻「え?」

春空は笑いながらも、どこか複雑そうな目で三人を見つめていた。