酸素吸入器が届く。
スタッフが準備する間も、悠真は莉麻から離れようとしない。
莉麻の服を握ったまま。
肩を震わせながら、浅く速い呼吸を繰り返している。
莉麻「悠真くん。これ、つけるね。」
悠真は小さく頷く。
酸素を当てる。
莉麻はそのまま悠真の背中をゆっくり撫で続けた。
しばらくしてほんの少しずつ呼吸の速さが落ちていく。
まだ苦しそうではある。
でも、さっきよりは落ち着いてきた。
涙の跡が頬に残っている。
莉麻はそれを見て、そっと声をかけた。
莉麻「もう大丈夫。ゆっくりでいいからね。」
その時、ステージ袖からスタッフの声が聞こえた。
「次の曲、お願いします!」
莉麻はすぐに首を振った。
莉麻「悠真くんは出ません。」
奈津も駆け寄ってくる。
悠真の様子を見て、表情が変わった。
奈津「……五人で行く。」
スタッフも頷く。
五人がステージへ向かっていく。
悠真は酸素を当てたまま、ステージの方向を見る。
少し落ち着いてきた呼吸。
けれど、まだ身体には力が戻っていない。
莉麻は悠真の手元を見る。
まだ自分の服を掴んだままだった。
莉麻「今日はもう休もう。」
悠真はゆっくり首を横に振る。
そして、震える手で莉麻の服を掴んだまま、ステージの方を見る。
言葉にはならない。
それでも、その目だけで分かった。
――最後のステージに戻りたい。
莉麻はしばらく悠真を見つめた。
そしてその意思を感じ取った。
莉麻「……無理はしないでね。」
悠真は小さく頷く。
しばらくして、呼吸が少し落ち着いたところで、悠真はゆっくり立ち上がろうとする。
莉麻がすぐに身体を支えた。
まだ足元は頼りない。
それでも悠真は、ステージへ向かう。
最後のツアーだから。
最後まで、みんなと立ちたい。
その気持ちだけで身体を動かしていた。
そして――
ライブが終わり、六人がステージ袖へ戻ってきた瞬間。
莉麻は悠真のもとへ駆け寄った。
莉麻「悠真くん――」
その瞬間悠真の身体から、ふっと力が抜けた。
莉麻「……え?」
莉麻が慌てて腕を伸ばす。
次の瞬間。
悠真はその腕の中へ崩れ落ちた。
そしてそのまま、意識を失った。



