悠真
「歩けないかもって思ったその時に『大丈夫ですか?』って声をかけられた。」
自然と莉麻の笑顔が頭に浮かぶ。
悠真「最初は俺だって気づかれて焦った。」
陽が思わず身を乗り出す。
陽「やっぱり?」
悠真は小さく笑う。
悠真「うん。でも莉麻ちゃん、全然騒がなかった。『悠真くん』って名前は呼んだけど。それより先に、『体調大丈夫ですか?』ってそれしか言わなかった。」
部屋が静かになる。
悠真「サインください、とか。写真いいですか、とか。そんなこと、一回も言われなかった。」
あの時の優しい声が、今でも耳に残っている。
悠真「日陰のベンチまで連れて行ってくれて新品の水も飲ませてくれて病院か家で休んだ方がいいって。家なら場所が分かっちゃうから、マネージャーかメンバーを呼びますかって聞いてくれた。」
春空は小さく息をのむ。
奈津も静かに話を聞いていた。
悠真は少しだけ笑う。
悠真「その時思ったんだ。……こんな人、本当にいるんだって。」
その一言には。
今でもあの日の出来事が特別な思い出として残っていることが、静かに滲んでいた。



