席に座ろうとした、その時だった。
悠真「……莉麻ちゃん。」
名前を呼ばれ、莉麻は振り返る。
悠真は少し困ったように笑っている。
悠真「隣、空いてるよ。」
それだけだった。
強く誘うわけでもない。
でも、どこか「ここに座ってほしい」という気持ちが伝わってくる。
莉麻は一瞬だけ春空を見る。
春空はすぐにその空気を察し、小さく笑った。
春空「じゃあ俺、後ろ行く。」
さらっとそう言って席を譲る。
莉麻「ありがとう。」
莉麻は悠真の隣へ座った。
ドアが閉まる。
車がゆっくり走り出す。
窓の外の景色が流れ始める中、悠真は小さく息をついた。
隣に莉麻がいる。
それだけで、不思議と肩の力が抜ける。
その様子を斜め後ろから見ていた奈津は、窓の外へ視線を向けながら静かに笑った。
そして春空もまた、前の座席に座る二人をぼんやり眺めていた。
自分から席を譲ったはずなのに。
胸の奥が少しだけ、もやっとした。



