あきない恋を、君と夜の街で。〜氷の貴公子の裏の顔〜

 放課後。キーンコーンカーンコーンという終業のチャイムが学校中に響き渡る。

「ひなたー! これから駅前にオープンしたカフェ行かない? 期間限定のパフェがあるんだって!」
「ごめんね、さくらちゃん! 今日、図書室の蔵書点検の割り当てがあって…… それに弟のお迎えもあるから!」

 ひなたは申し訳なさそうに手を合わせた。

「え〜、また? ひなたって本当に忙しいよね。放課後遊んでるの見たことないかも」
「あはは、ごめんね! 次は絶対行くから!」

 友達に笑顔で手を振って見送った後、ひなたは小さく息を吐いた。

(よしっ、急いで蔵書点検を終わらせないと……!)

 時計の針は15時半を回っている。弟の陸が待つ学童保育のお迎えは18時。それまでに、図書室の奧にある膨大な古い資料と文庫本の点検を終えなければならない。

 ひなたは走って二階の図書室へと向かった。放課後の図書室は静まり返っており、図書委員の生徒も貸出カウンターの業務で手いっぱいの様子だった。

「田中さん、奥の閉架書庫の点検、お願いできる? 目録と棚の本のバーコードが一致してるかチェックしてほしいの」
「わかりました!」

 ひなたは点検用のバーコードリーダーと目録のバインダーを受け取り、図書室の奥にある薄暗い閉架書庫へと向かった。

 閉架書庫は普段生徒が立ち入らない場所で、天井近くまで届く巨大な本棚がずらりと並んでいる。独特の古い紙の匂いと、しんとした静寂。

「うわぁ…… すごい量……」

 ひなたは圧倒されながらも、一冊一冊本を手に取り、バーコードを読み取っていく作業を始めた。

 最初は順調だった。だが、開始から一時間が経過した頃、問題が発生する。

「うーん、この上の段の本、届かないなぁ……」

 目録に書かれた歴史書のシリーズは、ひなたの身長では逆立ちしても届かない最上段に並んでいた。近くにあった木製の小さな脚立を持ってきて登ってみるものの、あと数センチというところで手が届かない。

「くっ…… もうちょっと……!」

 背伸びをし、必死に手を伸ばすひなた。だが、つま先立ちになった瞬間、脚立の脚がカタッと大きく揺れた。

「キャッ……!?」

 バランスを崩し、ひなたの身体が宙に浮く。

(嘘、落ちる——!)

 目をギューッと瞑り、落下の衝撃に備えた。

 だが、想像していた痛みが来る代わりに、ひなたの身体は強い力で抱きとめられていた。

「——何をやっている」

 耳元で響いた、抑えられた低い声。

 目を開けると、そこには至近距離で自分を見つめる秋人の顔があった。