初夏の光が眩しく照りつける私立鳳凰学園の校庭。体育の授業を終えた男子生徒たちが、額の汗を拭いながら校舎へと戻っていく。
「おい見ろよ、今日も完璧だな……」
靴箱の近くで男子生徒が呟いた視線の先。そこにいたのは、ブレザーのボタンを一番上まで完璧に留め、一切の乱れがない姿で歩く春夏冬秋人だった。
「春夏冬会長! 次の生徒会総会の資料なんですけど、確認お願いできますか?」
「ああ。放課後までに目を通しておく」
後輩の生徒会役員から差し出されたクリアファイルを受け取り、短く答える秋人。その声には一切の感情が籠もっていない。無駄のない立ち振る舞い、冷徹なまでに正確な処理能力、そして寄り付きがたい超絶怒涛のイケメンぶり。「氷の貴公子」の完璧な仮面は、今日も何一つ揺らいでいなかった。
(……くだらない)
秋人は心の中で深く息を吐く。
周囲から向けられる熱い視線も、崇拝の眼差しも、すべてが鬱陶しかった。彼らが讃えているのは「生徒会長・春夏冬秋人」という虚像であり、一族の評判を保つために演技をし続けている人形に過ぎない。
ふと、廊下の向こうからパタパタと忙しない足音が近づいてきた。
「あ、ごめんなさい! 通ります!」
両手に抱えきれないほどのダンボール箱を抱え、前が見えなさそうにフラフラと歩いてくる女子生徒。田中ひなただった。
「田中、大丈夫か? 手伝おうか?」
「ううん、大丈夫! 係の仕事だから!」
クラスの男子生徒に声をかけられ、ひなたは箱の隙間から顔を覗かせてニッコリと笑う。相変わらず飾らない、太陽のような笑顔。
秋人は歩みを止めず、ひなたとすれ違う。学校での二人は「ただのクラスメイト」であり、会話すら交わさない間柄だ。昨夜、夜の繁華街でバイクに乗り、手当てをしてもらったことなど、まるで夢だったかのように。
だが、すれ違いざま。
(あ……)
ひなたの腕から、ダンボールの一番上に載っていた一冊の出席簿が滑り落ちそうになった。ひなたが「あっ」と声を上げた瞬間、すれ違いざまの秋人の手が、信じられないほどの速さと自然さでそれをサッと支え、箱の上に戻した。
「……前を見て歩け」
ボソッと、周囲には聞こえないほどの低い声で呟く秋人。
ひなたが驚いて目を見開いた時には、秋人は振り返りもせず、そのまま廊下の奥へと歩み去っていた。
「……ありがとう、秋人くん」
ひなたは声に出さず、小さく唇を動かした。
周りから見れば、ただ擦れ違っただけにしか見えない一瞬の出来事。だが、彼の不器用な優しさが確かにそこにあった。ひなたは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じながら、資料室へと急いだ。
「おい見ろよ、今日も完璧だな……」
靴箱の近くで男子生徒が呟いた視線の先。そこにいたのは、ブレザーのボタンを一番上まで完璧に留め、一切の乱れがない姿で歩く春夏冬秋人だった。
「春夏冬会長! 次の生徒会総会の資料なんですけど、確認お願いできますか?」
「ああ。放課後までに目を通しておく」
後輩の生徒会役員から差し出されたクリアファイルを受け取り、短く答える秋人。その声には一切の感情が籠もっていない。無駄のない立ち振る舞い、冷徹なまでに正確な処理能力、そして寄り付きがたい超絶怒涛のイケメンぶり。「氷の貴公子」の完璧な仮面は、今日も何一つ揺らいでいなかった。
(……くだらない)
秋人は心の中で深く息を吐く。
周囲から向けられる熱い視線も、崇拝の眼差しも、すべてが鬱陶しかった。彼らが讃えているのは「生徒会長・春夏冬秋人」という虚像であり、一族の評判を保つために演技をし続けている人形に過ぎない。
ふと、廊下の向こうからパタパタと忙しない足音が近づいてきた。
「あ、ごめんなさい! 通ります!」
両手に抱えきれないほどのダンボール箱を抱え、前が見えなさそうにフラフラと歩いてくる女子生徒。田中ひなただった。
「田中、大丈夫か? 手伝おうか?」
「ううん、大丈夫! 係の仕事だから!」
クラスの男子生徒に声をかけられ、ひなたは箱の隙間から顔を覗かせてニッコリと笑う。相変わらず飾らない、太陽のような笑顔。
秋人は歩みを止めず、ひなたとすれ違う。学校での二人は「ただのクラスメイト」であり、会話すら交わさない間柄だ。昨夜、夜の繁華街でバイクに乗り、手当てをしてもらったことなど、まるで夢だったかのように。
だが、すれ違いざま。
(あ……)
ひなたの腕から、ダンボールの一番上に載っていた一冊の出席簿が滑り落ちそうになった。ひなたが「あっ」と声を上げた瞬間、すれ違いざまの秋人の手が、信じられないほどの速さと自然さでそれをサッと支え、箱の上に戻した。
「……前を見て歩け」
ボソッと、周囲には聞こえないほどの低い声で呟く秋人。
ひなたが驚いて目を見開いた時には、秋人は振り返りもせず、そのまま廊下の奥へと歩み去っていた。
「……ありがとう、秋人くん」
ひなたは声に出さず、小さく唇を動かした。
周りから見れば、ただ擦れ違っただけにしか見えない一瞬の出来事。だが、彼の不器用な優しさが確かにそこにあった。ひなたは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じながら、資料室へと急いだ。



