放課後を告げるキーンコーンカーンコーンというチャイムの音が校舎に響き渡ると、教室内は一気に解放感に満ちた空気に包まれた。机の引き出しから鞄を取り出し、部活へと急ぐ生徒、廊下で大声を上げて笑い合う男子生徒たち。
しかし、その賑やかな狂騒の中でも、窓際の最前列に座る一人の男子生徒の周りだけは、まるで透明な氷の壁で仕切られているかのように静まり返っていた。
春夏冬 秋人(あきなし あきと)。
整いすぎた目鼻立ち、透き通るような白い肌、そして少し長めの漆黒の髪。放課後の夕日を浴びるその姿は、まるで一流の彫刻家が精魂込めて削り出した美術品のようだった。完璧な着こなしの制服、一切の無駄がない立ち振る舞い。彼が席を立ち、ブレザーのボタンを静かに留めるだけで、教室内に残っていた女子生徒たちの息をのむ気配が伝わってきた。
「あ、あの……! 春夏冬くん……っ」
意を決したように、隣のクラスの女子生徒が手紙を手に駆け寄ってくる。頬を赤らめ、震える手で差し出されたピンク色の封筒。
だが、秋人はその手紙に一度視線を落としただけで、表情ひとつ変えなかった。瞳の奥には、光すら届かない冷酷な暗闇が宿っている。
「いらない」
抑え込まれた低い声。氷の刃のように冷ややかな一言が教室に響いた。
「え……」
「時間の無駄だ。次からは直接受け取りを拒否させてもらう。邪魔だからどいてくれ」
一切の情を挟まない容赦のない言葉。女子生徒は目から涙を溢れさせ、手紙を抱きしめたまま逃げ出すように教室を走り去っていった。周りの生徒たちは「またか……」「やっぱり『氷の貴公子』は伊達じゃないな」とヒソヒソと囁き合っている。
秋人は溜め息すら吐かず、教科書を鞄に仕舞うと、目線すら上げずに教室を後にした。
生徒会長、学年主任も脱帽するほどの優秀な成績、そして誰もが見とれる超絶怒涛のイケメン。けれど誰にも心を開かず、特に女子に対しては徹頭徹尾、無関心と無表情を貫く男。それが高校二年、春夏冬秋人に付けられた『氷の貴公子』という異名の由来だった。
校舎の階段を下りながら、秋人は自嘲気味に心を冷たく閉ざす。
(くだらない……)
好きだの嫌いだの、くだらない感情をぶつけてくる人間たち。彼らが求めているのは「春夏冬秋人」という人間ではなく、「春夏冬家の人間」というブランドに群がる群衆と同じだ。
国民的有名女優の姉、冬華。
世界トップチームで10番を背負うサッカー選手の兄、夏輝。
将棋界で「史上最年少無敗記録」を更新し続ける天才棋士の弟、春樹。
そして、国内有数の巨大財閥を率いる父。
凄まじい実績と名声を持つ家族に囲まれ、幼い頃から「春夏冬家の恥にならない存在」であることを強要されて育ってきた。何を達成しても「さすが春夏冬家の人間」と言われ、失敗すれば「一族の面汚し」と蔑まれる。
この完璧な「生徒会長」という仮面も、一族の評判を保つための籠の鳥の衣装に過ぎない。
(全員、消えてしまえばいい…… 俺も含めて)
胸の奥で渦巻く泥のような黒い感情を押し殺し、秋人は一人、生徒会室へと向かって歩みを進めた。
しかし、その賑やかな狂騒の中でも、窓際の最前列に座る一人の男子生徒の周りだけは、まるで透明な氷の壁で仕切られているかのように静まり返っていた。
春夏冬 秋人(あきなし あきと)。
整いすぎた目鼻立ち、透き通るような白い肌、そして少し長めの漆黒の髪。放課後の夕日を浴びるその姿は、まるで一流の彫刻家が精魂込めて削り出した美術品のようだった。完璧な着こなしの制服、一切の無駄がない立ち振る舞い。彼が席を立ち、ブレザーのボタンを静かに留めるだけで、教室内に残っていた女子生徒たちの息をのむ気配が伝わってきた。
「あ、あの……! 春夏冬くん……っ」
意を決したように、隣のクラスの女子生徒が手紙を手に駆け寄ってくる。頬を赤らめ、震える手で差し出されたピンク色の封筒。
だが、秋人はその手紙に一度視線を落としただけで、表情ひとつ変えなかった。瞳の奥には、光すら届かない冷酷な暗闇が宿っている。
「いらない」
抑え込まれた低い声。氷の刃のように冷ややかな一言が教室に響いた。
「え……」
「時間の無駄だ。次からは直接受け取りを拒否させてもらう。邪魔だからどいてくれ」
一切の情を挟まない容赦のない言葉。女子生徒は目から涙を溢れさせ、手紙を抱きしめたまま逃げ出すように教室を走り去っていった。周りの生徒たちは「またか……」「やっぱり『氷の貴公子』は伊達じゃないな」とヒソヒソと囁き合っている。
秋人は溜め息すら吐かず、教科書を鞄に仕舞うと、目線すら上げずに教室を後にした。
生徒会長、学年主任も脱帽するほどの優秀な成績、そして誰もが見とれる超絶怒涛のイケメン。けれど誰にも心を開かず、特に女子に対しては徹頭徹尾、無関心と無表情を貫く男。それが高校二年、春夏冬秋人に付けられた『氷の貴公子』という異名の由来だった。
校舎の階段を下りながら、秋人は自嘲気味に心を冷たく閉ざす。
(くだらない……)
好きだの嫌いだの、くだらない感情をぶつけてくる人間たち。彼らが求めているのは「春夏冬秋人」という人間ではなく、「春夏冬家の人間」というブランドに群がる群衆と同じだ。
国民的有名女優の姉、冬華。
世界トップチームで10番を背負うサッカー選手の兄、夏輝。
将棋界で「史上最年少無敗記録」を更新し続ける天才棋士の弟、春樹。
そして、国内有数の巨大財閥を率いる父。
凄まじい実績と名声を持つ家族に囲まれ、幼い頃から「春夏冬家の恥にならない存在」であることを強要されて育ってきた。何を達成しても「さすが春夏冬家の人間」と言われ、失敗すれば「一族の面汚し」と蔑まれる。
この完璧な「生徒会長」という仮面も、一族の評判を保つための籠の鳥の衣装に過ぎない。
(全員、消えてしまえばいい…… 俺も含めて)
胸の奥で渦巻く泥のような黒い感情を押し殺し、秋人は一人、生徒会室へと向かって歩みを進めた。



