最強の吸血鬼たちに執着されています

「こちらこそ、すみません」

穏やかな声とともに、落ちたケースを拾い上げた彼は、それを私へ差し出した。

黒髪に黒い瞳。

眼鏡をかけた、ごく普通の人間の男子生徒だった。
どこか地味で、落ち着いた雰囲気をまとっている。

 ……よかった。人間だ。

胸の奥で、張り詰めていた糸が少しだけ緩む。

「ありがとうございます」

ケースを受け取り、急いで鞄へしまう。

見た目だけなら、ただの錠剤。
白く、小さな粒。
特別なものには見えない。
よほど疑いを持って見なければ、これが何なのか気づく者はいないだろう。

 ーーそれでも。

私にとっては、これがなければこの場所にいることすらできない。
自分を隠すための、大切な薬。

「……ん?」

ふと気づく。
メガネの男子生徒が、私の後ろをじっと見つめていた。

何かあるのだろうか。
そう思い、ゆっくりと振り返る。

その瞬間。

視界に飛び込んできたのは、光を反射するような白髪だった。

 ーーシリウスさん。

一度見たら忘れられない。
雪のような白髪に、鮮やかな深紅の瞳。
今朝、私を倒れさせた張本人。

そんな彼が、いつの間にかすぐ近くに立っていた。

「やあ」

穏やかな声。

「少し気になって来てしまった。……今朝の子だよね?」

優しく微笑む彼に、私は一瞬言葉を失った。