君と迎えるクランクアップ

「――それでは、『あなたのイチバンになりたくて。』第7話、クライマックスシーン、本番いきます!」



監督の大きな声がスタジオに響き渡る。



セットの中央。



スポットライトの温かい光の下に、制服姿の優愛と、相手役のRENが立っていた。



少し離れたモニターの脇で、塁はその光景をじっと見つめていた。



さっき倉庫の裏であの距離まで近づいた名残が、まだ胸の奥で熱く燻っている。



自分でも驚くほど心臓がうるさかった。



「……私のイチバンになってよ、ずっと」



セリフとは思えないほどリアルな優愛の声が、スタジオの空気を震わせる。



RENが優しい笑みを浮かべ、彼女の肩を引き寄せ――いよいよ、物語最大のヤマ場であるキスシーンへとカメラが寄っていく。



(……来る)



頭では分かっている。



これはドラマの撮影だ。仕事なのだ。



だが、あの撮影の裏で交わした言葉や、向けられた熱い視線を思い出すと、どうしても胸が締め付けられる。



「――カット! 1テイク目、OK!」



その声とともに、RENがフッと笑って優愛から離れた。



「お疲れ! いやー、今日の優愛ちゃん、一段と気合い入ってたね」



「お疲れ様でした、RENくん。ありがとう」



モニターのチェックが始まり、現場が一気に慌ただしく動き出す。



「お疲れ、優愛」



周りがスタッフに囲まれる中、塁はいつものようにミネラルウォーターを手に近づいた。



だが、近づいてきた優愛の表情は、どこか満たされないような、それでいて確信に満ちたものだった。



「……塁」



「どうした、水飲むか?」



「ううん、いらない」



優愛は周囲のスタッフが少し離れた隙を見計らい、塁の耳元に顔を近づけた。



その声は、小さく、けれどはっきりと塁の心臓を撃ち抜いた。



「さっきの本番……RENくんじゃなくて、さっき倉庫で塁がしてくれればよかったのにって、本気で思っちゃった」



「っ……!」



言葉を失う塁を置いて、優愛はふっとイタズラっぽく微笑み、控室の方へと軽やかな足取りで歩いて行った。



クランクアップまで、あと少し。



隠し続けた秘密が、音を立てて溢れ出そうとしていた。