スタジオの隅、特等席に置かれたパイプ椅子に座りながら、塁はモニター画面を見つめていた。
「――カット! OKです!」
監督の威勢のいい声が響き、スタジオが一気にざわめく。
本日、撮る予定のシーンが無事に終わったらしい。
「お疲れ様でした、優愛さん!」
周囲のスタッフが次々と声をかける中、塁は素早く立ち上がり、用意していた冷えたミネラルウォーターとタオルを手に歩み寄った。
「お疲れ、優愛」
「……ありがとう、塁」
受け取ったタオルで汗を拭いながら、優愛はふうっと小さく息をつく。
ドラマの撮影が始まって数日。
普段のクールな役柄とは違う、少し不器用で真っ直ぐな女子高生役は、彼女の新しい一面を引き出していた。
制服姿の彼女がカメラの前に立つたび、現場の空気がフッと華やぐのが分かる。
だが、そんな現場で塁には一つだけ、気がかりなことがあった。
少し離れた場所で、今回の相手役である大人気俳優・RENが、爽やかな笑みを浮かべながらこちらに手を振っている。
モデル出身の彼は圧倒的なスタイルと人懐っこさで、撮影の合間にも優愛に気さくに話しかけていた。
「ねえ、塁」
優愛が塁の袖をキュッと引っ張った。
周囲にスタッフがいるため、声はごく小さなものだったが、その響きには甘えの色が混じっている。
「さっきのシーン、ちゃんと見守っててくれた?」
当たり前だ、と言いかけた喉元で、塁の言葉は止まった。
「……見てたよ。完璧だったじゃないか」
「ほんとに? なんか、塁の目が厳しかった気がするけど……」
「気のせいだろ。仕事中なんだから、しっかりチェックしてただけだよ」
少しそっけなく返してしまった自分に、塁は内心で舌打ちした。
RENと楽しそうに台本をめくる優愛の姿を見ていると、どうしても胸の奥がチリチリと焼けるような感覚に襲われるのだ。
幼なじみという立場にあぐらをかいて、好きだとも言えないくせに、他の男と親しげにしている姿を見ると不機嫌になるなんて、我ながらかっこ悪すぎる。
「……あのさ、塁」
優愛がふと視線を落とし、トーンを落として呟いた。
「私、今回の役、ちゃんとできてるかな。恋愛ドラマなんて初めてだから……自分でも、どこまでが本当の気持ちなのか、分からなくなっちゃうときがあるの」
その言葉は、ドラマの役柄としての迷いなのか、それとも――。
塁の心臓が大きく跳ねた。
だが、マネージャーという仮面を被った塁は、ぐっと拳を握りしめて微笑みを作る。
「お前はプロだろ。心配しなくても、最高の女優だよ」
「……馬鹿。そういう答えしか返ってこないんだから」
優愛はわずかに寂しそうな、それでいて愛おしそうな笑みを浮かべると、スタッフに呼ばれて再びカメラの前に戻っていく。
その後ろ姿を見送りながら、塁は自分の胸を押さえた。
特等席で見守るこの距離は、近すぎて、痛い。
「――カット! OKです!」
監督の威勢のいい声が響き、スタジオが一気にざわめく。
本日、撮る予定のシーンが無事に終わったらしい。
「お疲れ様でした、優愛さん!」
周囲のスタッフが次々と声をかける中、塁は素早く立ち上がり、用意していた冷えたミネラルウォーターとタオルを手に歩み寄った。
「お疲れ、優愛」
「……ありがとう、塁」
受け取ったタオルで汗を拭いながら、優愛はふうっと小さく息をつく。
ドラマの撮影が始まって数日。
普段のクールな役柄とは違う、少し不器用で真っ直ぐな女子高生役は、彼女の新しい一面を引き出していた。
制服姿の彼女がカメラの前に立つたび、現場の空気がフッと華やぐのが分かる。
だが、そんな現場で塁には一つだけ、気がかりなことがあった。
少し離れた場所で、今回の相手役である大人気俳優・RENが、爽やかな笑みを浮かべながらこちらに手を振っている。
モデル出身の彼は圧倒的なスタイルと人懐っこさで、撮影の合間にも優愛に気さくに話しかけていた。
「ねえ、塁」
優愛が塁の袖をキュッと引っ張った。
周囲にスタッフがいるため、声はごく小さなものだったが、その響きには甘えの色が混じっている。
「さっきのシーン、ちゃんと見守っててくれた?」
当たり前だ、と言いかけた喉元で、塁の言葉は止まった。
「……見てたよ。完璧だったじゃないか」
「ほんとに? なんか、塁の目が厳しかった気がするけど……」
「気のせいだろ。仕事中なんだから、しっかりチェックしてただけだよ」
少しそっけなく返してしまった自分に、塁は内心で舌打ちした。
RENと楽しそうに台本をめくる優愛の姿を見ていると、どうしても胸の奥がチリチリと焼けるような感覚に襲われるのだ。
幼なじみという立場にあぐらをかいて、好きだとも言えないくせに、他の男と親しげにしている姿を見ると不機嫌になるなんて、我ながらかっこ悪すぎる。
「……あのさ、塁」
優愛がふと視線を落とし、トーンを落として呟いた。
「私、今回の役、ちゃんとできてるかな。恋愛ドラマなんて初めてだから……自分でも、どこまでが本当の気持ちなのか、分からなくなっちゃうときがあるの」
その言葉は、ドラマの役柄としての迷いなのか、それとも――。
塁の心臓が大きく跳ねた。
だが、マネージャーという仮面を被った塁は、ぐっと拳を握りしめて微笑みを作る。
「お前はプロだろ。心配しなくても、最高の女優だよ」
「……馬鹿。そういう答えしか返ってこないんだから」
優愛はわずかに寂しそうな、それでいて愛おしそうな笑みを浮かべると、スタッフに呼ばれて再びカメラの前に戻っていく。
その後ろ姿を見送りながら、塁は自分の胸を押さえた。
特等席で見守るこの距離は、近すぎて、痛い。



