「ちょっと、置いてかないでよ、賢人くん!」
伊奈は慌てて小走りで追いかけ、賢人の袖をキュッと掴んだ。
振り返った賢人は、呆れたような、だけど最高に愛おしそうな笑みを浮かべて、伊奈の手をしっかりと握り返してきた。
繋がれた手のひらから、温もりがじんわりと伝わってくる。
過去の深い傷や、消えない悲しみが消え去ったわけではない。
綾里、和香菜、七海と過ごした日々は今でも胸の奥で大切に生き続けている。
そして彼女たちも、きっと天国からこの姿を温かく見守ってくれているはずだ。
「私たちの友情は一生不滅――そして、ここからは……」
心の中でそう呟きながら、伊奈は隣を歩く賢人の顔を見上げた。
友達以上、恋人未満。
まだ名前のつかない、だけど誰よりも温かい二人の関係は、春の優しい風に包まれながら、確かな一歩を踏み出して未来へと続いていく。



