結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

(どうしちゃったのかな。まさか、お腹が空いているのを指摘されて、ご機嫌が悪くなったわけじゃないよね)

 急に仕事を思いだのかもしれない。状況が飲みこめないものの、ひとまず通話の邪魔にならないように距離を取る。

 電話はすぐに終わり、迅は何事もなかったかのように戻ってきた。

「行くぞ」

「行くって、どこにですか?」

「いいから。時間がない」

「え、ちょっと……」

 畳みかけるような言葉と同時に手を引かれ、透子は戸惑いながらも付いていく。

 公園の船着き場が近づくにつれ、夕景の中に浮かび上がったのは、鮮やかな赤と清潔感のある白を基調とした船体だった。優雅なフォルムが、水面に揺らめく港の明かりに照らし出されている。

 それは、海の上で食事と風景を楽しむための、大型のレストランシップだった。

「あれって……」

「乗るぞ」

「今からですか⁉」

 驚いて、思わず声を上げる。

「カウンセラー的には、このまま解散が正解なんだろうけど、俺はまだ君とデートを楽しみたい気分なんだ」

 そう言って、迅は透子の手を軽く引いた。その横顔には迷いがなく、どこか当然のような余裕が滲んでいる。