結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

 つられるように視線を向けながら、透子は当時のことを思い出し、胸を重く沈ませた。

 けれど、あのときはああするしかなかった。間違っていたとは、今でも思っていない。

「透子?」

 不意に名を呼ばれ、透子ははっと顔を上げた。

 心配そうに覗き込む迅の視線が、すぐ近くにあった。

「あっ、ごめんなさい。ぼーっとしてました。行きましょう!」

 慌てて歩き出そうとした、その瞬間。右手がふわりと温かさに包まれた。驚いて視線を落とすと、透子の手は彼の大きな掌にすっぽりと収められていた。

「あの……」

「仮交際中に手を繋いじゃいけないルールはないだろう?」

「な、ないです」

 思わず上ずった声が出る。むしろ男性の会員には彼女が嫌そうでなければ、軽く手を繋いでみるのも距離が縮まりますよ、などとアドバイスしている。

 しかし、自分がされてみると、どう反応すればいいのかわからない。手から伝わる体温に意識を持っていかれて、頭の中がうまく回らない。

(男性と手すら繋いだ経験なんてないから……と、とりあえず、平常心!)

「なんなら、こっちにするか」

「え……」