結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

 すると、迅が一歩前に出て、石井を見下ろした。

「どういうつもりだ。彼女に失礼だろう」

 低く抑えた声で、迅は目の前の男を威圧する。透子からは彼の表情は見えない。だが、全身から静かな怒りが立ち上っているのが伝わってきた。その証拠に、石井の表情はみるみるうちに強張っていく。

「くそ……俺は忘れないからな!」

 じりじりと後ずさった石井は、舌打ち混じりの捨て台詞をはくと、そのまま人混みの中へ走り去っていく。

「……なんだ、あの男は」

 呆れと苛立ちの滲む声が頭上から落ちてきた。

 張り詰めていた空気が途切れた途端、透子はどっと力が抜ける。

「ご迷惑をおかけして、すみません。以前、仕事で少し関わりのあった方で……あの、対応していただいてありがとうございました」

 迅に余計な心配をかけたくなくて、透子は無理に口元を持ち上げた。

「いまの男、石井と名乗っていたな。なにをしている奴なんだ?」

「たしか、丸丹デパートにお勤めだったかと」

「……そうか」

 透子が答えると、迅は眉を寄せたまま石井が消えていった方向を睨んだ。

(石井さん、私を恨んでるんだ)