結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

「はい。私、中華街で食べ歩きしたことなくて。好きなものを思いつくままに選んで、少しずつ食べるのって、ふたりでしたら楽しそうじゃないですか?」

 少し思い切った提案だという自覚はあったので、不安だった。迅は軽く目を見張り、そのまま透子を見つめた。

 高級レストランでの食事が当たり前の人だ。やはり、庶民的な過ごし方は好まないかもしれない。失礼な提案だっただろうか。

「あの、もし嫌なら……」

「たしかに楽しそうだ。行こうか」

 言い終える前に、あっさりと同意される。その声色は思いのほか明るかった。

「はい! 行きましょう」

 思わず頬を緩めながら、透子は迅と並んで歩き出した。

「中華街なんて、久しぶりだな」

「私もです。だいぶ変わってるみたいですよ」

 そんな会話を交わしながら目的の方向に歩いていると、不意に背後から声を掛けられた。

「やっぱりそうだ。偶然ですね、マリアージュ・アクシアの持田さん」

「え……」

 突然名前を呼ばれ、透子は驚いて足を止める。

 振り返った先に立っていたのは、三十代半ばほどの男性だった。