結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

 妻は家庭を守るものだと考える父と、家庭の中だけに閉じ込められることに息苦しさを覚える母。
 ふたりの間には、埋めようのない価値観の隔たりがあった。

 最初から噛み合っていなかった歯車が、時間とともにさらにずれていったようなものだったのかもしれない。
 結局夫婦の仲は修復できないほどに冷え込み、透子が小学五年生のとき、母は離婚を選び、娘を連れて家を出た。

『お母さん、これからがんばるね』

 母は明るく振る舞い、最後まで弱さを見せなかった。けれど、家を出る前の夜。透子はひとり泣いている姿を見てしまう。

『……あんなに好きだったのにね』

 力なく落ちた言葉には虚しさを悲しみが滲んでいた。彼女の涙を見たのは、それが最初で最後だ。

 しかし、離婚後、母は生き生きと働き出した。保険の営業は社交的で話し上手な彼女に合っていたのだろう。どんどん成果を上げいく
内に、将来なにか自分自身でなにか事業を起こしたいという夢をもつようになった。

 父といるときより幸せそうな様子に、透子は安心すると同時に複雑な気持ちを抱いた。