結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

「誰かを恋愛対象として好きになったことがないんです」

 言葉にしてしまったことで、胸の奥に押し込めていたものが開かれていく。透子は、自分の生い立ちや両親の離婚、周囲から受けてきた誤解を順を追って語った。

「男女の仲を取り持つプロなのに、まったく恋愛経験がなくていいのか少し不安なんです。本当にお客様の気持ちに寄り添えるのかって」

 これまで母にさえ打ち明けたことのない本心まで口に出ていて、透子ははっと我に返る。

「ご、ごめんなさい。自分語りしすぎちゃいました」

 慌てて頭を下げると、少しの沈黙のあと、迅が静かに口を開いた。

「透子の仕事に必要なのは、恋愛経験の数じゃない。人を幸せにしたいと思う熱意と、相手に誠実に向き合う覚悟だ。君にはもう、十分すぎるほど備わっていると思うが」

「……迅さん」

「透子に担当してもらった人間は、間違いなく幸運だ。最後まで寄り添ったその女性も」

 落ち着いた声で紡がれるその言葉は、ただ透子を慰めるために選ばれたものではなく、彼の本心に聞こえた。胸がいっぱいになり、うまく返せない。