結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

 外に出た瞬間、ひやりとした海風が頬を撫でた。視界いっぱいに横浜の夜景が広がり、思わず息をのむ。先ほどまで窓越しに眺めていた景色が、今は手を伸ばせば触れられそうなほど近くで、きらきらと揺らめいている。

「寒くないか?」

「いえ、気持ちいいくらいです」

 少し風は冷たいが、身体を冷やすほどではない。むしろ頬に触れる風が心地よく、胸の奥まで澄んでいくようだった。

 柵に身を預けて目を細めていると、迅がすぐ隣に立った。

「透子。気がかりなことがあるなら、なんでも話してほしい」

「え……」

「俺なら、大概の面倒ごとは解決できる」

 迅はまっすぐこちらを見ている。もしかしたら、石井のことを気にしてくれているのかもしれない。

「迅さんがそう言うと、冗談に聞こえないから怖いです」

 その気遣いが嬉しくて、透子は彼を見上げ、わざと困ったように笑ってみせる。けれどすぐに視線を海へと戻し、揺れる光をぼんやりと追いながら小さく息をつく。

「……解決しなくていいので、愚痴を聞いてもらってもいいですか」