結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

 急に自分の薄いメイクが気になり始め、透子は気恥ずかしさをごまかすようにルージュへ視線を落とす。

「仕事上、定期的に最新のメイクは学んでいるからな」

「社長さんもメイクを勉強するものなんですか?」

 思わず聞き返すと、迅はうなずきながら、リップの入っていた箱を指先で摘まみ上げた。

「まあ、続けてるのは経営陣では俺だけだろうな。でも、化粧品は単品じゃなく、トータルで仕上げるものだろう。カウンターで商品を売る側の感覚や、ユーザーの気持ちは少しでも理解しておきたいんだ」

 さらりと言っているが、その言葉には商品への強いこだわりが滲んでいた。

(迅さんは、すごい人なんだな)

 透子は改めて、迅の仕事に向き合う姿勢に心を打たれる。

 彼が経営者である限り、これからもMSBは多くの女性を惹きつけていくのだろうと思えた。

「少し、外の空気を吸わないか?」

 軽い食事を終えたあと、迅にデッキへと誘われる。