結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

「俺の運転で、君を家まで送り届けたいからな」

 迅は、自然な仕草でグラスを透子に向かって掲げた。

「……ありがとうございます」

 透子は素直にお礼を言い、グラスをそっと持ち上げ、同じようにする。この場で遠慮するのは逆に彼に失礼な気がした。

 窓の外に目をやれば、夜の観覧車の光がゆっくりと回り、遠くのビル群が宝石のように瞬いている。船の揺れは穏やかで、時間さえもゆっくり流れているようだった。

「ふふっ……」

「どうした?」

 思わず透子が吹き出すと、迅は軽く首を傾げた。

「だって、さっきまで中華街で立ち食いしてたのに……」

 あまりの急展開と、シチュエーションのギャップに、おかしくなってくる。

「俺は公園の散策も、立ち食いも楽しかったぞ。君に楽しませてもらってばかりで悔しいくらいだ」

「負けず嫌いなんですね」

 さらに透子が笑うと、迅は満足げに顔を綻ばす。

「仕事を忘れて、こんなにリラックスしたのはずいぶん久しぶりな気がする。特に父が亡くなってからは」

 ポツリと零しながら、迅の視線は遠くの水平線を映していた。その凪いだ瞳に透子の胸は切なくなる。