──翌日。
学校ではいつも通り。
涼は教室の一番後ろの席で本を読んでいる。
家で見せる穏やかな表情はどこにもない。
「柴崎くん!」
休み時間になると、女子たちが机の周りへ集まる。
「今度のテスト勉強教えて!」
「この前のお礼、受け取って!」
涼は困ったように少し笑いながら、一人ひとりに丁寧に答えていた。
その様子を見ていた夏音の胸が、ちくりと痛む。
「……あれ?」
──どうしてだろう。昨日までは何とも思わなかったのに…
「夏音?」
美優が顔をのぞき込む。
「どうしたの?」
「え?」
「さっきから柴崎くんばっかり見てるから」
「ち、違うよ!」
「ほんとに?」
美優はにやりと笑う。
「もしかして気になってる?」
「そんなわけ……。」
──否定しようとした。でも言葉が続かない。
家で見た笑顔。買い物袋を持ってくれたこと。
指を切ったとき、すぐに駆け寄ってくれたこと。
──全部が頭の中を駆け巡る。
違う…涼は家族だし…そういう意味じゃ…
自分に言い聞かせても、胸の鼓動は速くなるばかりだった。
──放課後。
家へ帰る途中、玄関の前で涼が立ち止まる。
「夏音」
「え?」
「指…今日は、水あんま触んなよ」
絆創膏を見つめながら言う。
──涼はそれだけ言うと、何事もなかったように靴を脱いで家へ入っていった。
夏音は一人、玄関に立ち尽くす。
──胸にそっと手を当てる。
ドキドキ、心臓の音が、やけにはっきり聞こえた。
「……うそ。」
昨日の自分なら笑って否定していただろう。でも、もうごまかせなかった。
──あの日。
「俺のこと、絶対好きになるな。」
そう言われたはずなのに――。
私はもう、その約束を守れそうになかった。
いつのまにか、こんなに涼のことを好きになっていた。



