キミが家族になった、その日から。



──桜が満開になった4月。新学期が始まり、夏音と涼は高校2年生になった。


あの日、互いの想いを伝え合ってから一週間。二人の関係は何も変わっていない、学校では今まで通り、必要以上に話さない。

 
家でも、以前と変わらない距離を保っている。けれど、お互いの気持ちを知っているだけで、その沈黙さえ心地よかった。


───ある日の放課後。夏音が昇降口を出ると、校門の前に涼の姿があった。


「待った?」

「うん、5分くらい。」

「ごめん…」

「はは、うそだよ」

優しいその返事に、夏音は思わず笑う。

「最近、笑うこと増えたな。」

「え?」

「前はそんなふうに笑わなかった。」


そう言われて初めて気づく。母を亡くしてから閉ざしていた心は、少しずつ開いていた。


「……涼のおかげ。」

その一言に、涼は少し照れたように視線をそらした。


「……そういうこと、さらっと言うな。」


2人肩を並べて歩き出す。途中、商店街の八百屋で継父に頼まれた買い物を済ませる。

スーパーを出ると、重たい袋を涼が自然に持った。


「私も持つよ。」

「いい。」

「でも重いでしょ?」

「お前に持たせるほうが嫌だ。」

───その何気ない一言に、夏音の頬が赤くなる。

恋人ではないのに…それなのに、恋人以上に優しい。

帰宅すると、継父が夕食を作っていた。

「おかえり。」

「ただいま。」


以前なら母が立っていたキッチン。今は継父が慣れない手つきで包丁を握っている。


「手伝うよ。」

夏音がエプロンをつけると、涼も隣に立った。3人で夕食を作る。そんな何気ない時間が、少しずつ新しい家族の形になっていた。


───食後、継父が笑いながら言う。

「そういえば、お母さんがまえ言ってたんだ。」


二人は顔を上げる。


「『二人とも、きっと仲良くなる気がする』って。」



夏音は思わず息をのむ。涼も静かに目を伏せた。母は何もかもお見通しだったのかもしれない。


その夜。

自室へ戻ろうとした夏音を、涼が呼び止める。

「夏音。」

「ん?」

「俺さ。」

少しだけ照れくさそうに笑う。

「ちゃんと父さんに話そうと思う。」

夏音は驚いて目を見開いた。



「今すぐじゃない…でも逃げたくない…お前を好きだってことも。…これから先、一緒に歩いていきたいってことも。」



夏音の目に涙が浮かぶ。それは悲しい涙ではなかった。未来を信じられた、初めての涙だった。



窓の外では夜桜が静かに揺れている。

二人の恋は、もう隠すだけの恋ではない。

大切な人たちに認めてもらうため、一歩ずつ未来へ歩き始めていた。