12月も終わりに近づき、冬休みまであと数日となった朝。
キッチンから香ばしい匂いが漂ってくる。
「おはよう。」
眠そうに目をこすりながらリビングへ行くと、母がフライパンを振っていた。
「あ、おはよう、夏音」
──いつものお母さんの優しい笑顔。
その隣では継父が新聞を読み、涼は静かにトーストをかじっている。
いつもと変わらない朝だった。
「今日の夜はね、みんなの好きなハンバーグにするから。」
母が嬉しそうに言う。
「ほんと!?」
──夏音は思わず笑顔になる。
「やった!」
「涼も楽しみにしててね。」
名前を呼ばれた涼は、小さく頷いた。
「……うん」
その短い返事に、母は満足そうに笑う。
「最近は二人とも仲良くなったみたいで安心したわ。」
その言葉に、夏音と涼は顔を見合わせ、少しだけ照れたように目をそらした。
「もう、遅刻するわよ。」
母に急かされ、二人は慌てて立ち上がる。
──玄関で靴を履きながら、夏音は振り返った。
「行ってきます!」
母はエプロン姿のまま、大きく手を振る。
「行ってらっしゃい。」
その笑顔を見て、夏音も笑い返した。
――それが、母と交わした最後の言葉になるなんて、このときは思いもしなかった。
───5時間目。
数学の授業中だった。先生が黒板に数式を書いていると、教室の扉が静かに開く。
担任の先生だった。
「失礼します。」
いつもより少し硬い声。
教室が静まり返る。
「柴崎夏音さん。」
「……はい。」
「少し職員室まで来てくれる?」
───胸がざわつく。何か悪いことをしただろうか。
友達の美優も心配そうにこちらを見ていた。
「行ってきます。」
教室を出ると、担任は何も話さず廊下を歩き始める。
その横顔は、どこか張りつめていた。
「先生……何かありましたか?」
返事はない。
ただ、「急ごう」とだけ言われた。職員室の前まで来ると、そこには継父が立っていた。
スーツ姿のまま、顔色は真っ青だった。
「……お父さん?」
継父は夏音を見るなり、苦しそうに唇を震わせる。
「夏音…」
その声だけで、嫌な予感が胸いっぱいに広がる。
「お母さんが……」



