気付けば夏も終わり、あっという間に九月も終わりに近づき、校内は文化祭一色に染まっていた。
教室の後ろには段ボールや絵の具が積まれ、休み時間になるたびに誰かが飾り付けを始める。
夏音のクラスは「メイド喫茶」。
女子は衣装合わせ、男子は看板作りに追われていた。
「夏音、このリボン結んで!」
「うん、いいよ。どこ?」
友達の美優に声をかけられ、エプロンのリボンを結んであげる。
「夏音って器用だよね。」
「えー?そんなことないよ」
二人で笑い合っていると、廊下が急に騒がしくなった。
「ねぇ、柴崎くんだ!」
「今日もかっこいい……!」
黄色い歓声が聞こえ、思わず廊下を見る。
そこには、文化祭実行委員の腕章をつけた涼が、先生と話しながら歩いていた。
女子たちは次々と声をかける。
「柴崎くん、写真撮って!」
「文化祭、一緒に回ろ!」
涼は困ったように笑いながらも、一人ひとりに丁寧に返事をしていた。
その姿を見ていた夏音の胸が、少しだけ苦しくなる。
「 やっぱり、人気者なんだな……」
──家で見る涼は、あんなふうに笑わない。
ぶっきらぼうで、無口で、でも時々優しい。
そんな涼を知っているのは、自分だけ。
そう思った瞬間、自分でも驚くほど胸がざわついた。
「夏音?」
美優が不思議そうに顔をのぞき込む。
「どうしたの?」
「えっ?」
「ぼーっとしてる。」
「あ……何でもない。」
──慌てて笑顔を作る。
けれど視線は、また涼を追いかけてしまっていた。



